額賀澪『ラベンダーとソプラノ』【読書で世界を広げよう】

2022年9月出版、額賀澪さん初の児童書

今回も今年に入ってから出版された本を取り上げます。2022年9月に出版された額賀澪さんの『ラベンダーとソプラノ』という合唱をテーマにした1冊です。最近の中学入試の国語の問題は、その年に出版された本から出題されることが多くなってきています。中学受験国語のテーマの王道である「成長物語」ということで、中学校の先生方も注目されているのではないでしょうか。

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額賀さんはこれまでも『タスキメシ』『屋上のウインドノーツ』など、多数の作品が中学入試の出典として取り上げられています。先日は四谷大塚の合不合判定テストにおいても『モノクロの夏に帰る』からの問題があったことが記憶に新しいです。

本書は作者初の児童書とのことで、本自体も大き目のサイズですし、ルビも多めです。児童書だからこそのまっすぐな表現、瑞々しい言葉で等身大の小学生が描かれている作品です。

「学校の外じゃないとわからないこと」

舞台は主人公、真子の通う小学校の合唱クラブから始まります。小学校のクラブ活動でありながらも、合唱コンクールにて全国大会常連という強豪ですが、昨年惜しくも金賞を逃してしまいました。真子たちが6年生になり「今年こそ金賞を取って!」という周りからのエールは、だんだんと「金賞を取らなければ」というプレッシャーへと変わり、のしかかってきています。

クラブに生じる不協和音

子どもの主体性のためと子どもに役割を押し付ける顧問の先生、責任を感じて余裕のない部長である穂乃香、厳しすぎる練習を良くないと感じながらも、誰もそんなことを言い出せない雰囲気。真子や穂乃香たちが頑張らなければと必死になればなるほどクラブの不協和音は大きくなってきてしまいます。
良くないと思っているのに、お互いに言いたいことも言えなくなり、空気が悪くなってゆくような悪循環は子どもだけの力ではなかなか解決できるものではありません。ヒリヒリとした空気が伝わってきます。

「学校にしかないもの、学校じゃないと手に入らないもの」

そんな時、真子は保健室でたまたま出会った朔に誘われて、商店街の人たちが自由に集う合唱団に参加することになります。
朔の歌声を聞き、商店街の人たちに言葉をかけられ、朔やクラブのメンバーとぶつかり、悩み、、、楽しくやることは頑張らなくていいこととは違う、と真子の気持ちが少しずつ形になっていきます。

何度も商店街の合唱団の練習に参加するうちに、「学校の外じゃないとわからないことって、結構あるんだなって思う」、そして「学校にしかないもの、学校じゃないと手に入らないものも、たくさんあるのかもしれない。」と心の中でつぶやきます。

「自分の『言葉』が増える」経験

「楽しく歌を歌う」ではなくて「怒られないように頑張る」となってしまっていた真子にとって、学校の外の人々とのやり取りは色々なことに気づかせてくれる時間となりました。視野が広がり、自分の「言葉」が増えたことで、だんだん自分のすべきこと、やりたいことが見えてきたのです。

『自分の言葉って、こうやって増えていくんだ。友だちを増やすみたいに出会った言葉の数だけ、わたしの言葉が増えていく。』

春の初めに始まったお話も、この頃にはコンクール間近の夏を迎えています。ここから最終章に向けて、真子の成長と共に物語も加速していきます。

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「みんなで頑張る」が苦手な人へ

作者の額賀さんは、子どものころから「みんなで頑張る」というのが苦手だったそうです。「みんなで」、「頑張る」どちらもポジティブな良い言葉として使われることが多いと思いますが、それぞれの言葉が色々な<形>を持ち、自分の考える<形>を絶対だと思わず、他者の<形>を理解し、受け入れることで本当の「みんなで頑張る」につながるのでは、と書かれています。

それぞれに異なる「正しさ」の形

本書の最終章には〈正しさ〉というキーワードが出てきます。

物事を考えるときに、すぐに正しいか間違っているかと決めたくなってしまうけれど、人それぞれに〈正しい〉の形が違っていて、それを通そうとするからぶつかり合ってしまう。間違っているとか、悪者とか決めつけるのではなく、〈正しさ〉というのはあやふやで形のつかめないものなのではないか、と真子の気づきとして語られています。

学校というのはどうしても集団で動くことが多い場所、その中で「みんなで頑張る」ことが苦しいときもあるかもしれません。そんな時に寄り添う言葉がこの本には散りばめられています。行事やクラブ活動、スポーツをしている人、好きなことに打ち込んでいる人、どんな人にでも響く言葉が見つかるはずです。細部にわたる繊細な心情の描写が丁寧で、大人でも読み応えのある一冊でした。

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