
ミステリー小説の名手、初の児童書
今回ご紹介する『やらなくてもいい宿題 謎の転校生』は子ども向けに書かれた本格謎解き小説です。
作者の結城真一郎さんは、開成中学・高校出身の小説家で、『#真相をお話します』が本屋大賞にノミネート、映画化されるなど、ミステリー小説界の新星といわれています。
結城さんは小学生時代は外遊びが大好きなわんぱく少年でしたが、母親の読み聞かせをきっかけに本の世界に夢中になり、読書が大好きになったそうです。小学生のときに『ハリー・ポッターと賢者の石』を読んだことが読書への扉を開いたと語っており、なんだか親近感を覚えますね。
作家を目指す原点となった開成中の卒業文集
開成時代は、中学の卒業文集に600枚の長編小説を提出した」という逸話もあり、当時から物語を生み出す情熱にあふれていたことがうかがえます。内容も実在するサッカー部員が校舎内で開成の進学権をめぐって殺し合う「バトル・ロワイアル」のパロディーという強烈なもので、今から考えるととんでもないような発想の小説でした。
でも、学校側がその創作意欲を尊重し、お蔵入りさせずに掲載してくれたこと、周りから好意的な反応をもらえたことが作家を目指した原点になったそうです。
開成時代の自由な土壌で培った発想力が発揮された児童書
そんな結城さんが初めて子ども向けに書いたのが『やらなくてもいい宿題』です。開成時代の自由な土壌で培った発想力が、児童書というフィールドでも巧みに発揮されています。
「算数の公式なんか知らなくても大丈夫!必要なのは柔らかい頭だけ!(結城さんのXより)」と考えることの楽しさと、物語の中に潜む意外性が絶妙に組み合わさった一冊です。
謎解き×学校が舞台の青春小説
謎解き小説とは言っても、問題ばかりではなく、軸になるストーリーも楽しめます。
小学5年生の数斗のクラスに、謎めいた転校生・ナイトウさんがやってきます。突然やってきた転校生に興味津々なクラスメイトたちは、ナイトウさんのことを知ろうとあれこれ質問するのですが、何を聞いても「内緒」とはぐらかしてばかり。自分のことを何も語らない彼女にしだいに興味がなくなってしまいます。
ナイトウさんから出題される算数の文章問題
一方、数斗は「彼女は“怪盗ランマ”ではないか?」という疑惑を抱きます。怪盗ランマというのは、紳士的でスマートな犯行の手口が特徴の、近頃日本中を騒がせている大泥棒です。数斗が彼女の秘密を探ろうとすると、ナイトウさんは「この問題が解けたら質問に答えてあげる」と、算数の文章問題を出題します。
中学受験の算数で習う特殊算に取り組みながら秘密に迫る展開
扱われている問題は、つるかめ算、旅人算、年齢算など中学受験の算数で習うような特殊算がずらり。算数が得意な数斗は自信満々で解答しますが、出される問題は単純な算数の問題に見えて謎解きのような要素が仕掛けられており、公式や解法に当てはめただけでは正解にたどり着けません。数斗はナイトウさんの出す問題に挑みながら、彼女の秘密に迫っていきます。
物語は全6編の連作短編集で構成されており、それぞれが異なる算数の特殊算をテーマに展開されます。問題の考え方はイラストで紹介されており、算数の特殊算に慣れていないとしても心配することはありません。ぜひ読むのをとめて問題にチャレンジしてみてくださいね。
ミステリー小説が気に入ったらこちらもどうぞ
本作は、算数の文章題を通じて物語の謎を解き明かす構成が特徴で、読者自身も主人公と一緒に頭をひねりながら読み進める楽しさがあります。このような「読みながら考える」ことを楽しむ児童書として、講談社の児童書レーベル「青い鳥文庫」から刊行されている人気のミステリーシリーズ、藤本ひとみさん原作の『探偵チームKZ(カッズ)事件ノート』もおすすめです。
主人公の小学生・立花彩が、塾で出会った個性豊かな男子4人とともに「探偵チームKZ」を結成し、学校や地域で起こるさまざまな事件に挑む物語です。各メンバーが得意分野を活かして協力し合う姿や、友情、ほのかな恋愛模様も描かれており、お気に入りのキャラクターを見つけるのも楽しそうです。
すべての漢字にふりがなが付いているため、読書に慣れていない子どもでも安心して楽しめます。「読む」楽しさと「考える」面白さを同時に味わえる作品で、シリーズものとして多数刊行されているので、初めてのミステリー小説としてもおすすめです。