『一瞬の風になれ』佐藤多佳子/『よろこびの歌』宮下奈都【読書で世界を広げよう】

学校生活、楽しんでいますか

風薫る5月、新しい学校、新学年、、新しいことづくしの環境にも慣れて学校生活が楽しくなってきた頃でしょうか。大人になって学校生活を振り返ったときに、コミュニティの一つとして大きな存在になるのが部活、行事です。中学受験でも、その学校ならではの個性ある部活があったり、行事で先輩たちが大活躍しているのをみて憧れたり、と学校選びのきっかけになることがありますね。

学生生活を舞台にした本は山ほどありますが、思わず夢中になって読んでしまうテンポの良さがあり、楽しそうだなぁいいなぁと思えるような読後感の良い2冊を紹介したいと思います。

スポーツに打ち込む青春

1冊目は佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』です。本屋大賞受賞作でもあるので、大人はご存じの方も多いと思います。実は読み返すのはこれで3度目なのですが、リアルに描かれた心情を追体験したくなって、ストーリーを覚えていても手に取ってしまいます。

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駆け抜けるように読み終わる全3巻

さて、本編は陸上の話のはずなのに、最初のシーンに出てくるのはサッカーです。主人公の新二は兄に憧れて続けていたサッカーで行き詰まり、サッカー名門校の私立に通う兄とは別の道を選びます。そして、新二の幼馴染の連は天才的なスプリンター。掴みどころのない性格ながらも、新二に「ボールなんてなけりゃ、おまえ、もっと速いのに」という言葉を投げかけます。同じ高校に進んだ新二と連は、周りからの勧誘にも背中を押される形で陸上部に入ることに。

序盤に体育の授業でのスポーツテストで走るところがありますが、走る前の新二と連のやりとりはぞくぞくとします。このシーンは作者の佐藤さんが私たち読者に仕掛けてきているようにも感じます。これからこの二人、とんでもないことになりそうだなとわくわくする気持ちにさせてくれます。

語り口は新二の一人称で、感情駄々洩れの口調が読みやすく、小学生が読んでも親近感が湧くのではないでしょうか。友情、成長、挫折、恋、、、青春の要素がこれでもかと詰め込まれている1000ページ。個性を持った登場人物たちが、グラウンドを舞台に動き回る様子に魅了されて、全三巻の長編でありながら駆け抜けるように読み終わるはずです。

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学校行事でつながる心

2冊目は宮下奈都さんの『よろこびの歌』です。

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新設の私立女子校の学校行事、校内合唱コンクールを通して紡がれる学校生活。ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シと名付けられた7つの章は、目線を変えながら、共に過ごす時間が何度も丁寧に描かれ、読み進めるにつれて登場人物たちの輪郭がはっきりとしてきます。

最初の章と最後の章で2度取り上げられる御木元玲は、「多くのことをあきらめてしまってここにいる」「この学校にいる私は仮の姿」と心の中でつぶやきます。玲だけでなく少女たち皆が、大人からみるとちっぽけに見えるような悩みや迷いを抱えながら、葛藤しています。

綺麗事ばかりではない「青春」

合唱コンクールの練習を通じて、ぶつかり合い、心を通わせていくのですが、みんなで心を合わせようという空気に馴染めない子や、協力的ではない子なども描かれており、綺麗事ばかりではないところもいいです。

「青春」という言葉は遠くから見るとキラキラと綺麗に見えますが、その真っ只中にいるとなかなかそうもいかないですよね。でも、彼女たちのように泥臭くぶつかりながらも相手を知ろうとし、お互いを尊重し、想いそれぞれに未来の自分に向かって歌を歌うことができれば、時がたってもずっとその思い出がパワーをくれるのではないでしょうか。

少し大人びた子が読めば、「気が合うから仲良くする、違う考えだから関わらない」ではなく、それぞれが関わりあうことで少しずつ前に進んでいくことができるということ、そんなことを感じ取るかもしれません。女優の芦田愛菜さんがたくさんの読んだ本を紹介している『まなの本棚』でも取り上げられており、小学校5、6年生で読んだとのこと。同じ年代の読み手がどう感じたのかを覗いてみるのも楽しいと思います。

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心を乗せて楽しむ読書を

ちなみに、『よろこびの歌』には、高校を卒業してそれぞれの道に進んだ3年後の物語が描かれた『終わらない歌』という続きの本があります。もちろん独立して読んでも楽しめるのですが、「あの」クラスのメンバーだから、「あの」高校時代だから、こその空気感が読み手にも伝わってきます。懐かしい登場人物たちに同窓会のように再会するもの楽しいです。

今回は、たっぷりと感情移入をして、心を乗せて読んでほしい2冊を紹介しました。

読み終わるころにはこんなふうに走ったら気持ちがいいだろうなぁとうらやましくなったり、お腹から声を出して歌を歌いたくなったり、今まで遠かった世界がぐっと近づいてきます。本を通して、学校生活、「キラキラの」青春にどっぷり浸ってみてください。

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