混沌とした世界に目を向けること【不易と流行】
  • 2022年2月 ウクライナ紛争開始
  • 2023年10月 パレスチナ・イスラエル戦争開始

上記のニュースは日本でもしばしば伝えられるので、画面越しではありますが現地の悲惨な状況を私たちも知る機会があります。同時に、発生当初の強烈な印象は、これが日常になってしまうと、いつしかあまり意識しない状態になってしまいますね。

パレスチナのガザ地区では、戦争開始以来、総計で5万5000人以上、そして1万6000人を超える子どもたちが犠牲になっているというのに……。裏を返せば、それだけ日本が国際社会においては平和を享受しているとも言えますが。

実際のところ、あまり報道されませんが、現在は世界の59か所で紛争が起きているようです。アフガニスタンやソマリア、イエメンなどでは1年間に千人を超える犠牲者が出ていて、約4億7000万人の子どもが紛争下で生活していると言われています。

世界的な紛争に関わる問題が出題された2025年の中学入試

こうした状況を受けてのものか、2025年の中学入試においても世界的な紛争にかかわる問題がさまざまな学校で出題されました。

基本的な知識を問う問題

例えば、以下は基本的な知識を問う問題です。

例1「獨協中学」第1回入試-大問3・問1/問2

ともにニュースなどではよほど注意していないとあまり聞くことはありませんが、中学受験においては必要とされる知識ですね。

UNCHR(国連難民高等弁務官事務所)

UNCHR(国連難民高等弁務官事務所)は、かつて緒方貞子さんが10年ほど高等弁務官を務めていたこともあり、中学入試問題ではよく出題されます。また、「難民」についてはウクライナからの難民の申請や、日本は難民の認定が厳しい国であるということをニュースなどで見たことがある人もいるかもしれませんね。

答え 問1:イ  問2:オ

時事問題

続いては、やや難度が高い問題。

例2「早稲田実業学校中等部」問14④

これはいわゆる「時事問題」として扱われる題材で、日ごろからニュースなどを気にしている人にとってはとくに難しいわけではありませんが、まったく知らずにいる人には解答はなかなか思いつかないでしょう。

2025年入試において、紛争関連で言えば、「ガザ地区」「ハマス」「イスラエル」など圧倒的に「パレスチナ・イスラエル戦争」に関する出題が目立ちました(攻玉社中学・聖光学院・高輪中学・獨協中学・本郷中学・鷗友学園女子・大妻中学・田園調布学園・普連土学園・青稜中学などなど多数)。
実は上記の早稲田実業の問題も、「パレスチナ・イスラエル戦争」に関わっています。

答え (例)長崎市がイスラエルを式典に招待しなかったから。

紛争やデモ、暴動……混沌とする世界情勢

2025年に入っても、ともに核保有国であるインド・パキスタンの間で紛争が起こり、アメリカのカリフォルニア州では、トランプ大統領の移民政策に反対するデモに対して州兵が投入されて混乱が生じています。

と、ここまで書いていたところで、イスラエルがイランを空爆したというニュースが入ってきました(6月13日)。歯止めが利かないような混沌とした情勢に驚くばかりです。さらに、この原稿の編集作業中だった622日朝には、アメリカがイランの核施設を空爆したというニュースまで…。歯止めが利かないような混沌とした情勢に驚くばかりです。

「終末時計」に関する出題

こちらも、おそらく世界の危機的な情勢を受けてだと思われますが、2025年入試において「終末時計」に関する出題がありました。出題校は女子学院です。かつては頌栄女子学院でも出題されています。

人類滅亡までの時刻を示す「終末時計」

「終末時計」とは、核戦争などによる人類滅亡(終末)を午前0時とし、終末までの時刻を「0時まで、残りあと何分(秒)」という形で示したもので、アメリカの著名な科学者らで構成する「科学安全保障委員会」が毎年発表しています。

1991年の冷戦終結時には残り時刻は「17分」でしたが、1月28日に発表された2025年版では、終末までの残り時刻は僅か「89秒」となり、1947年の発表以来、残り時間がもっとも短くなったということです。それだけ世界情勢が緊迫していることを示していますが、現在の状況はさらに悪化しているように感じられます。

「自分も社会を構成する一員である」という当事者意識

中学受験の社会科では世界情勢を学びますが、それだけではなく、自分も社会を構成する一員という自覚をもって、世の中や世界の出来事に敏感になってほしいと思います。以前のコラム(第4回)でも、「当事者意識」が求められていることを書きました。

自分の将来、社会の未来を想像することは難しいことではありますが、いま起きている出来事は自分の将来と無関係ではないという意識は、持っていてほしいと思います。アメリカによるイランへの空爆は、もしかしたら原油価格の高騰を引き起こすかもしれません(そうなると、電気代やガソリン代が値上がりする可能性があります)。このように、世の中の出来事を「自分ごと」と思えれば良いですね……実際には、大人でも難しいことですが。

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