ありふれた日常の中にあふれる、さまざまな「気持ち」

毎日小学生新聞の連載が本になりました

今回は2024年3月6日に発刊されたばかりの、椰月美智子さんの最新作、「ともだち」を紹介します。

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毎日小学生新聞にて、2023年の8月から2024年1月まで、全100回にわたって連載されていた作品です。言葉の感覚というものは、日々綺麗な文章にたくさん触れることで磨かれると感じています。こうした新聞の連載小説を続けて読むというのも、良質な言葉を浴びることにつながりますからお勧めしています。

新聞の紙面にて、このあとはどうなるんだろうと続きを楽しみに読むのも楽しいですし、今回のように本としてまとまった形になった後に触れると、また違った楽しみや発見があるのではないでしょうか。

6年生の日常、卒業までの物語

主人公であるジュンは小学6年生、まわりの仲の良い友人たちと小学校最後の一年を楽しく過ごしています。6年生の秋から、卒業式までの数ヶ月を舞台に、ありふれた日常の中のちょっとした事件、友達との小さなやりとりを経て、子供たちが少しずつ大人になっていく様子が書かれます。

『ともだち』というシンプルなタイトルの通り、友情をテーマにしたお話で、登場人物たちの目線で描かれた文体は、読む子どもたちも本の内容に入り込みやすいと思います。

先入観を排除する、カタカナ表記の持つ効果

読み始めると、全ての子どもたちの下の名前がカタカナで書かれているところに気づきます。

名前の漢字が人の印象を左右することがあるように、漢字自体が意味を持っているものですが、この作品では、カタカナ表記で書かれていることで、きっとこんな子なのだろうなと勝手に先入観を持つことなく読みはじめることができました。

こういった細やかな作者の書き方の工夫も感じながら読むと楽しいです。

いろいろな「気持ち」に重ねながら

16に分かれて書かれている章にはすべて「気持ち」という言葉がつけられています。

連載開始時の「いろんな友達がいて、いろんな見方があるということを知ってもらいたくて書きました」という椰月さんの言葉通り、子どもたちはジュンたちと一緒に日常を過ごすようにして、自分の気持ちと重ねながら読み進めることができることと思います。

書かれているのがなんてことのない日常だからこそ、その中で出会う色々な出来事にも自分事として向き合えるのではないでしょうか。

同じ出来事に接しても「気持ち」は異なる

ある日、小さな事件が起きてジュンたちの生活がざわざわとし始めます。解決したくても自分ひとりの力ではどうにもならなかったり、こうした方がいいかなと提案しても理解を得られなかったり……。

同じ出来事を前にしても、思うこと、感じることが違うという当たり前のことに改めて気づかされます。

子どもたちの目線から見た「大人」の姿

クラスでの話し合いを通して担任の宇野先生と向き合うことになる12章は、子どもたちの目線から見た「大人」の姿が描かれます。

先生も、立場の前に一人の人間であり、必ずしも正しいことばかり言えるわけでもないですよね。そもそも正しいこととは何か、すぐに決まらないような問題もたくさん出てきます。

大人が掲げる理想論や綺麗事だけでは解決しない、と、痛いところを突かれたときの大人の態度、子どもたちの反応はとてもリアルで読み応えがあります。

3月、卒業の時期に

最後の16章のタイトルは「卒業の気持ち」、ちょうどこの季節にぴったりな卒業式のシーンが描かれています。

先生から、一人ひとりの名前が呼ばれ、それぞれのクラスメイトに対してのジュンの思いが語られる中、そういうことだったのか、とここまで読んできた人だけが感じられる仕掛けが書き込まれています。

自分の卒業に重ね、人生の節目の雰囲気を味わってほしい

ここ数年、コロナ禍で卒業式自体が開催されなかった年もありました。なんとか開催された場合も、該当学年だけで行われたり、歌や呼びかけなど、声を出すものを中止にしたり、と制限付きのことが多かったと聞きます。

今年、卒業を迎える子どもたちに話を聞いてみても、実際に出席してしたことがある子ばかりではなく、卒業式のイメージがぴんとこないという子もました。まもなく桜の便りが届くこの時期の6年生の子どもたちが、自分の卒業に重ね、人生の節目の雰囲気を味わってほしいと思います。

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