不確かな時代を生き抜くための人文書――「あいだで考える」シリーズ

「あいだで考える」シリーズ刊行

今回は、創元社より2023年4月に刊行されたばかりの『あいだで考える』というシリーズを紹介します。

「不確かな時代を共に生きていくために必要な『自ら考える力』『他者と対話する力』『遠い世界を想像する力』を養う多様な視点を提供する、10代以上すべての人のための人文書のシリーズ」

本シリーズのキーワードである「あいだ」という言葉を通して、実社会において色々な分野の「当事者」である書き手が、多様な価値観や視点を提示してくれます。自分では考えもつかないような価値観に触れ、実際に会わずとも他者の思考を知ることができるのは読書の醍醐味です。

絶対的なものなど多くない世の中で、自分の価値基準を考える

ここ数年のコロナ禍を経て、世の中には正解のない問題ばかり、絶対的なものなど多くはないということを感じます。そして、そのような状況だからこそ自分自身の価値基準がどのようなものかを考えることが、より求められるようになってきました。

立場や価値観の違いによる望まない分断が起こる中、あいまいなものを受け入れ、自分と異なる考え方を持った他者と向き合えるだけの余裕が求められているように思います。

刊行されている4冊の中から、人と人の「あいだ」というテーマで書かれた、田中真知さんの『風を通すレッスン 人と人のあいだ』を取り上げてご紹介します。

田中真知『風をとおすレッスン』

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創元社
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本書は、著者の田中さんが、中東やアフリカを旅して回り、長年過ごしてきた間の旅の経験や、古今東西のさまざまな文化や文学作品を取り上げながら、コミュニケーションや対話について語ります。

題名にレッスンとありますが、この本にはコミュニケーションがうまくいくためのノウハウが書いてあるわけではありません。ただ、田中さんの体験を読み、自分だったらどうだろうと想像力を働かせることで、「風とおし」の良い人間関係を作るヒントのようなものをもらえるはずです。

どの章においても、田中さんが実際に現地で体験したエピソードや、心動かされた具体的な作品が出てきますので、まるで旅行記を読んでいるような感覚で読み進めることができます。

コロナ禍を経て変化した「他者との距離感」

本書の「はじめに」には「『つながり』をゆるめる」というサブタイトルがついています。

コロナ前と後では他者との距離の取り方が随分と変わりました。ソーシャルディスタンスという言葉にあるように、物理的な距離を取り、生活様式が変わったことによって、精神的な距離にも変化があったように思います。

でも、この世の中において、人と関わらずに生きることはできません。先に述べたように、社会の分断が問題になっていることを受けて、むしろ人とのつながりを大切にしなければいけないという風潮を強く感じます。

ちょうどよい距離感とは

田中さんは、そのようにしてつながりすぎることに疑問を投げかけます。

人とのつながりなしに自由はありえない。だいじなことは、「つながりにとらわれないこと」だ。そのためには、つながりを断ち切るのではなく、ゆるめることだ。

本書「はじめに」より

今の時代、インターネットを駆使すれば、時間帯、場所を問わず人とつながることができますし、世界のどこにいるかもわからない見知らぬ誰かとやり取りをすることも可能です。

しかし、そのつながりは度を過ぎて強くなりすぎると、互いを縛るストレスへと変わってしまいます。家族などの親しい間柄であっても適度な距離感というのは必要なものです。

体で〈間〉を感じることを大切に

そして、田中さんが距離感と同じように大切と考えているのが〈間〉です。

例えば、会話の中で間が持てないことに気まずさを感じてしまうことがあったり、会話のキャッチボールがポンポンとリズムよくいかない状態をもどかしく思ったりしますよね。

〈間〉や相手との距離感を良くないものだと考えてしまうと、ぼっかりとできた間をなんとかしようと焦り、あがいてしまいがちですが、まずは体でその間を感じることを大切にしてみようと思わされます。

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1冊の本から考えを広げるための「GUIDE」

本文の最後には「GUIDE」というページが付いており、それぞれの章のテーマに対応して、出てきた言葉についてさらに知り、考えを広げるためのお勧めの作品が紹介されています。本だけではなく、映画の紹介もあり、合わせて触れることで本への理解が深まります。

2024年度の中学入試においては、今回紹介した『風を通すレッスン』や、春に刊行されていた戸谷洋志さんの『SNSの哲学』が国語の出典として扱われました。シリーズとして、これから5冊の発刊が予定されていますので、新しい本選びの切り口としてぜひ注目してみてください。

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