中学受験社会│原子力発電から考えてみる「電気・自然のこと」

 

中学受験指導スタジオキャンパス社会科科目責任者の大森尚王先生が、近年の中学入試社会の傾向をお伝えする「不易と流行」。今回は、佐賀県唐津市への旅で耳にした「玄海原発」の話をきっかけに、原子力発電について考えていきます。電気は私たちの生活に欠かせない一方で、地域経済、安全性、核のごみ、再生可能エネルギーなど、さまざまな問題とも深く関わっています。中学受験社会でも出題されやすい「電力」と「環境」のテーマを、身近な疑問からわかりやすく解説します。

こんにちは。ワールドカップが盛り上がっていますが……、サッカー日本代表、残念でしたね。

唐津の旅で出会った「玄海原発」の話

前回のコラムでは、ゴールデンウィーク期間中の佐賀県唐津市への家族旅行に触れました。今回はその続編を紹介します。

▼前回のコラムはこちらより

地元の人から聞いた玄海原発の存在感

個人的に、今回の旅行でとくに印象に残っていることは、地元のタクシーの運転手さんから聞いた「玄海原発」の話です。地元に暮らす人のまさに地域に密着した情報でした。玄海原発は、唐津市の隣町である玄海町にあります。

中学受験社会│原子力発電から考えてみる「電気・自然のこと」
玄海原子力発電所(佐賀県)©photo AC

 

玄海原発を支える多くの人々

玄海原発では3000人前後の人々が働いているようです。朝の出勤時間に、JR唐津駅近くにあるバス運送会社の車庫から出る玄海原発行の路線バスに乗る人が多いようですが、原発行きのバスが30台以上も並ぶ景色は圧巻でした。また、単身赴任のような形で仕事をしている人も多数いるらしく、金曜の夕方はその人たちが一斉に自宅に戻るために道路がかなり渋滞するとのこと。

地域経済と自治体財政への影響

九州最大の規模を持つ玄海原発は(敷地面積は東京ディズニーランドの約1.7倍もあります)、その雇用面も含めて地域経済に大きな影響を与えています。人が集まれば経済は活性化しますね。

また、玄海原発が位置する玄海町は、原発関連の税収や交付金があるために財政が豊かで、国からの地方交付税交付金を受け取っていない地方自治体のひとつです。ちなみに、全国にある地方自治体1718のうち、地方交付税交付金を受け取っていないのは、現在はわずか84市町村しかありません。

さらに、いわゆる「核のごみ」の処分場建設に関する調査を受け入れたため、あらためて国から調査期間中で最大20億円の交付金が出ることも決まっています。

電気を使う側として考えたいこと

こうしたことを踏まえると、過疎に悩む、経済の活性化に頭を悩ます地方自治体の視点から見れば、原子力発電所にはそれなりに魅力があることが理解できるのではないでしょうか。

首都圏に暮らす人たちは、私も含めてつい「原発=安全性に不安がある」ということを頭に思い浮かべますが、一定量の電力を原子力発電所がある地域から買ってまかない、便利な生活を送ることができている事実も理解しておく必要があるように思います。

イラン情勢を見ても、発電エネルギーのほとんどを外国からの輸入に頼っている日本は、化石燃料を原料とした火力発電に依存し続けることには不安が募ります。風力や太陽光など「再生可能エネルギー」の割合も年々増加傾向にありますが、少ない燃料で大きな電力を安定的に得られる特徴をもつ原子力発電は日本にとって貴重な発電源です。

原子力発電をめぐる不安と課題

一方、原子力発電の安全性に不安を持ってしまうことも事実でしょう。

 

大きな事故が示した安全性の問題

古くは、旧ソ連のチェルノブイリ(チョルノービリ)原子力発電所の事故、そして福島第一原子力発電所の事故など、大きな事故が起こると取り返しのつかない被害を広範囲に出してしまいます。

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コンクリートの屋根に覆われたチェルノブイリ原発©photo AC

 

若狭湾沿岸と活断層をめぐる不安

原子力発電所が集中する若狭湾沿岸(「原発銀座」と言われます)には、大規模な地震を引き起こす可能性があると考えられる活断層があり、原子力発電所の安全性に疑問が持たれています。実際に、若狭湾沿岸の原発をめぐっては地域住民らによる原子炉の運転差し止め訴訟も起こされています。たとえば、202512月の大津地裁判決では、美浜3号機、高浜14号機、大飯34号機について、住民側の請求が棄却されました。

「核のごみ」はどこへ行くのか

原子力発電所で使用した核燃料は、再利用のために処理されると、使えなくなったものは処分することになります。使用済み核燃料(一般的には「核のごみ」と言われます)とはいえ放射能を出すので人体にとってはかなり危険なものですが、日本ではこの処分場がひとつもありません。先ほど、佐賀県玄海町が処分場建設のための調査を受け入れることを書きましたが、まだ処分場建設のための場所を選定する段階です。

地層処分という処分方法

ちなみに、核のごみの処分は「地層処分」とよばれる形態で、これは核のごみをガラス固化体に封じ込め、それを地表から300m以上の深い場所に埋める方法です。フィンランドやスウェーデンなどでも地層処分は進められていますが、日本ではこの処分方法に対して300名を超える地学の専門家が安全面などについて不安視する声明を発表しています。

六ケ所再処理工場と使用済み燃料の課題

加えて、青森県六ケ所村に建設中の核燃料の再処理施設は予定よりも20年も遅れていて、まだ完成していません。それぞれの原子力発電所に留め置かれている使用済み核燃料の量は、そろそろ限界を迎えるようです。

こうして見ると、たしかに不安要素は払拭されませんね。

 

中学受験社会│原子力発電から考えてみる「電気・自然のこと」

 

中学入試社会につながる身近な問い

中学入試の社会科では、原子力発電だけではなく、石油の輸入や電力割合、地球温暖化防止のための「パリ協定」など、私たちの身近な生活とかかわりの深い事柄が数多く出題されます。電気がなくては生活に困りますが、環境への配慮も必要…こうした難しい問題を気にすること、日ごろから考えることが、結果的に中学入試の社会の勉強を後押しします。

 

親子で考えたい5つの疑問

・なぜガソリン代が値上がりするの?

・お菓子の包装紙が白黒になる理由は何?

・暑くてもクーラーの温度を下げすぎないのはなぜ?

・ここ数年、猛暑日が多いのはどうしてだろう?

・電気をつくる新しい方法は考え出せないの?

日常の疑問から社会を学ぶ

素朴な疑問は意外と本質をついていたりするものです。

私たちの生活に欠かすことのできない電力のこと、そして自然のことを今一度考えてみてはいかがでしょうか。

中学受験社会│原子力発電から考えてみる「電気・自然のこと」

 

※記事中のデータは執筆時点のものです。

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