中東情勢を中学受験の時事問題として学ぶ意味|原油・イラン・終末時計から考える
中学受験指導スタジオキャンパス社会科科目責任者の大森尚王先生が、近年の中学入試社会の傾向をお伝えする「不易と流行」。2026年の時事問題で注目を集める「中東地域・原油」について、私たちの生活と結びつけて解説します。

連載記事の「不易と流行」、すっかりご無沙汰してしまいました。1年ぶりのコラム更新です。2026年度の目標として、中学入試に関係しそうな時事的な問題を中心に「月2回の更新」を目指します。ここで自分にプレッシャーをかければ……がんばれるかしら。    

終末時計「85秒」――過去最短を更新した世界

さて、1年前のコラムを見返してみると「アメリカによるイランの核施設への空爆実施」や「終末時計が過去もっとも短くなった」という内容が書かれていて、現在とそれほど変わっていない状況に驚きました。むしろ、事態は悪化している印象を受けます。実際、2026年の終末時計は過去最短を更新する「85秒」になりました。

★イラン  イスラム教の少数派である「シーア派」の国。首都はテヘラン。 約50年前の「イスラム革命」によって国王が追放され、宗教指導者が最高権力者となっている。 人口、面積ともに世界17位に相当する大国で原油の産出国でもある。2024年にBRICS加盟。 歴史の古い国でもあり、世界遺産の登録数は日本より多い29件で世界10位。 イスラム革命以降は基本的に「反アメリカ」の姿勢を取り、核兵器開発疑惑でも対立してきた。 ★終末時計  核戦争などによる人類の絶滅を「午前0時」と考え、それまでの残り時間を「あと何分(秒)」という形で象徴的に示す時計のこと。アメリカで発行される雑誌『原子力科学者会報』の表紙絵と して使われている。 1947年開始。その時点では「7分前」。2026年時点でもっとも短くなったのは同年の「85秒前」。つまり、現在の世界情勢はそれだけ危機的で緊迫しているということ。※中学受験のアトリエ編集部作成

封鎖が直撃する、日本の食卓と暮らし

原油の約90%を中東地域に依存――日本への影響

アメリカの同盟国である日本は、こうした世界情勢からどのような影響を受けているのでしょうか。
もっとも分かりやすい影響は、原油の輸入です。
日本はサウジアラビアやアラブ首長国連邦など、中東地域に原油の輸入を依存しています。原油輸入量全体の約90%を中東地域に頼っており、現在アメリカと戦争状態になっているイランも中東地域の国です(しかも、イランはこの地域でもっとも人口が多い国です)。

※中学受験のアトリエ編集部作成

タンカーは10分の1以下に――石油備蓄放出にまで及んだ事態

2026年3月の原油輸入量は2月と比較して約17%も減少し、4月はさらに減る見通しです。これはペルシア湾の入り口にあたるホルムズ海峡をイランが封鎖していることが大きな原因です。
ホルムズ海峡はこれまでに1日平均130隻のタンカーが通行していましたが、現在では10隻未満となっているようです。

※イラストACより

こうした状況を受け、日本ではガソリン価格が高騰し、その対応を含めて政府は備蓄している石油を放出する措置をとりました3月と5月の2回)。今回の2回で1か月分以上の石油を放出することになり、現在(4月28日時点)の日本には約211日分の石油が備蓄されていることになります。

ナフサ不足から食卓まで――値上げの連鎖は止まらない

また、プラスチックの原料として使われるナフサ不足も深刻化しています。ナフサは原油を精製してつくられるガソリンに似た液体で、意外にも私たちの身近なものにもたくさん使われています。たとえば、お菓子の包装紙の塗料にもナフサが使われているので、ある企業はナフサ不足を受けてお菓子の包装紙の色をなくし、包装紙を白黒にして販売するようです。ニュースでも取り上げられていましたね。また、日本経済新聞によると(4月28日朝刊)、ある企業はプラスチックの容器が作れなくなるため、プリンの販売中止を検討しているようです。

※中学受験のアトリエ編集部作成

このように、ナフサの不足は単に品不足ということでは終わらず、日用品や電気料金の値上げにつながり、またガソリン価格の高騰による輸送費の増大は、結果的に食料品の価格にも大きく影響します。つまり、私たちの生活全体に関わることなのです。

日本はどの道を選ぶのか――問われる「当事者意識」

アメリカとの距離、軍事力、憲法9――4つの選択肢

この状況を踏まえ、日本がとるべき態度とは何でしょうか。一体、何をすればよいでしょうか。

たとえば、アメリカとより一層仲良くするべきか、それともアメリカの影響力を徐々に減らしていくべきか。日本もアメリカに依存しない軍事力を持つべきか、それとも現状を大きく変えることなく日本国憲法第9条にある通り「国際紛争を解決するために武力を使わない」「戦力を持たない」方針をするのか。または、これまでとはまったく異なる道を新しく考えることも良いでしょう。

トランプ大統領の任期は残り2年半――あなたならどう考える?

現在のアメリカは、トランプ大統領の下で「アメリカファースト(アメリカの国益を最優先に考える)」主義を掲げていますが、トランプ大統領の任期は残り2年半。2期目のため再選はありません。良くも悪くもアメリカは大統領次第で国の方針が変化します。

さて、あなたならどう考えますか。当事者意識をもって考えることができるでしょうか。

6年生はこれから核兵器に関わる内容を通常授業で学びます。核兵器がなくならない現在の世界において、世界で唯一の被爆国として日本は何をするべきで、具体的には何ができるのでしょうか。    

社会科という「小さな窓」――社会科を知ること、学ぶことの意義

受験勉強で忙しい毎日ですが、、世の中、社会がどのように回っているのか、また日本と世界はどのように関わっているのかを、少し立ち止まって考えてほしいと思います。そして、紛争はなぜなくならないのでしょうか。ロシアと戦争中のウクライナだけではなく、世界中で紛争が起こり、多くの子どもたちが紛争による影響を受けています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、日本の総人口とほぼ同じ約12000万人が故郷を追われて避難生活を送っており、その半数近くは子どもたちです。

日本や世界で起きている出来事は未来の生活と直接関係していることばかり

日本で暮らしていると見えない世界も、社会科を学ぶことで小さな窓が開けます。「知ること」「学ぶこと」の大切な一面ですね。「いま日本や世界で起きているさまざまな出来事は未来の生活と直接関係していることばかりなのだ」と意識しながら学べば、また違った景色も見えるのではないでしょうか。政治とは特別なものではなく、もちろん政治家だけのものでもなく、私たち一人ひとりに関わることです。だからこそ、自分自身で考えることが必要なのですね。
※記事内容は執筆時点でのものです。

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