向田邦子『父の詫び状』【読書で世界を広げよう】

本を通して時代を知る

今回はひさしぶりに随筆を取り上げます。5月のコラムでは、随筆文入門ということで、さくらももこさんの『あのころ』や、科学者たちの胸の内を覗き見ることができる『だから、科学っておもしろい!!』を紹介しました。

今回取り上げるのは向田邦子さんの『父の詫び状』です。テレビドラマの脚本家でもあった向田さんの文章は、ご両親世代であればどこかで出会っていらっしゃるのではないでしょうか。

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随筆文の受け止め方は、読み手がそれまでに見聞きしたものによるところが大きく、個人的には自ら手に取ったタイミングこそが読み時だと考えているのですが、昨今の中学入試の問題の出典は多様で、こんなに大人っぽい文章が、というものが出題されることも少なくありません。今とは常識が違う、家族のあり方が違う、と時代背景がずいぶんと昔であることもあります。子どもたちには、今の時代と違うからおかしいと拒否するのではなく、こんな時代もあったのだなと受け止めるだけの素地があってほしいなと感じています。

昭和の家庭を覗き見て

この本の舞台は昭和10年代。令和の時代になり、平成生まれの子どもたちにとっては、昭和という時代はテレビや小説の中の話。勉強をする中で戦争に伴う時代背景を学ぶことはあっても、生活の様子、ましてや中流家庭の家族のやり取りを見る機会はなかなかありません。

24の短いお話が入っていますが、どのお話もその時代に生きていたわけではないのに読むほどに懐かしく感じます。自身の子ども時代を振り返り、子どもの目線で書かれているものが多いので、時代は違えど子どもたちも自分と重ねて読めるのではないかと思います。

父の権威が絶大な家族のあり方

タイトルの通り、父親をはじめとする家族のエピソードが多く、父親の権威が絶大だった昭和の家庭がいきいきと描かれています。あんなこともあった、こんなこともあった、とつぎつぎと呼び起こされるエピソードは楽しい連想ゲームのようです。

頑固で怒りっぽく理不尽、そしてプライドが高い。今の世の中でこんな父親がいたならば非難されてしまうかもしれませんが、家庭のなかで圧倒的権力を持ちながらも、決して無敵の強さがあるわけではなく、一家の大黒柱として強くあろうとする姿の中に、家族への深い愛情を感じます。

向田さんは飛行機事故で突然逝去され、昭和56年8月22日が没日ですが、没後40年を過ぎてもなお愛される名著の一つです。脚本家をされていたからというのもあるのかもしれませんが、向田さんの文章は情景が鮮やかに浮かび上がってきます。無駄な言葉というのがなく、それでいてあたたかくユーモアがあります。きりりとした綺麗な文章を堪能してみてください。

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「字のないはがき」

向田さんといえば、小学校の国語の教科書にも載っている「字のないはがき」を思い出す方も多いのではと思います。『眠る盃』という随筆集に所収されている作品で、戦争中のエピソードがつづられており、いつもはこわいお父さんの、娘たちに対する愛情の深さを感じられます。

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2019年にはこちらの作品を原作とした絵本が出版されました。角田光代さんが文を、西加奈子さんが絵を担当されていて、絵本ならではのシンプルな文章が子どもの心に届きやすいのではと思います。

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原作と比べると端折られている表現も多いので、原作を味わってほしい思いもありますが、絵本を通した短い言葉を通してだからこそ伝わるものもあると思います。柔らかいタッチの絵で、読み聞かせにも良い作品でした。

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