祝福の鐘が鳴りますように――尾崎英子『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)

年が明けて少し経ち、いよいよ中学受験の本番シーズンが迫ってきました。関東では12月から千葉の単願入試や帰国枠の入試がすでに始まっています。

昨今の関心の高まりもあるのか、ここ数年の間に中学受験をテーマに取り上げた本が増えてきているように思います。漫画で描かれた『二月の勝者』は昨年にドラマ化されたのが記憶に新しいですよね。

中学受験を子どもの目線で

今回紹介するのは、まさに中学受験に挑む6年生を主人公に据えた小説、尾崎英子さんの『きみの鐘が鳴る』という本です。

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発刊にあたってのインタビューで尾崎さんがおっしゃっていた言葉を引用します。

“大人の事情や価値観で放つ、たった1つの言葉や態度というのは、大人が思う以上に子供の心に響き、残るものだなと今は思います。だからこそ、子供の目線で丁寧に描写してみようと思いました。“

作者の尾崎さんは、ご自身も中学受験生だったことがあり、そして中学受験生のお母さんも経験されています。児童書として書かれた本作は、子どもの目線で中学受験を捉えたものとなっています。

ほどよくリアルで、希望がある

中学受験がテーマになった本というとどんな印象を受けるでしょうか。当事者でなければお楽しみとして読めると思いますが、ご家庭が中学受験の真っ只中となると、我が子の状況と重ねて辛くなってしまうのではないか、展開によってはショックを受けるのではないか、と心配になるかもしれません。

この本がお勧めできるのは、ほどよくリアルであるところ、そして希望があるところ。中学受験はあくまでも舞台であり、一人一人の人生の一期間です。スポーツや音楽などと同様の、頑張ること、人生の中で目標に向かって努力する経験の一つとして描かれているのがすがすがしいです。

子どもたちそれぞれの中学受験

登場するのは4人の6年生たち。それぞれ、受験する理由も、選んだ学校も、頑張り方も違うけれど、縁あって「エイト学舎」という小さな塾で一緒に頑張ることになります。

冒頭と最終章の主人公である真下つむぎは、友人関係で嫌な思いをしていることで、学校での居場所がなく、塾まで変えることになってエイト学舎で学ぶことになりました。また、4人のうちの唯一の男の子である牛窪涼真は、前の塾での成績が振るわずに転塾、教育熱心すぎる父親の期待に応えようと苦しんでいます。

どこにでもいる子どもたちの言葉で心の中を垣間見る

もちろん小説での「設定」ではありますが、この本に出てくる子どもたちはどこにでもいます。表には見えなくとも、どんなご家庭も、親子も何かしら悩み、葛藤しているものです。なんのために中学受験をするんだっけ、どうしてケンカしちゃうんだろう、、、子どもたちの言葉で心の中の言葉が語られます。

そして、そこにそれぞれのタイミングで言葉をかけてくれるのが各章で出てくる塾や保健室の先生といった大人たち。周りの大人の言葉を通して、作者からのメッセージが伝わってきます。

祝福の鐘が鳴りますように

今の日本では、中学受験をという選択をしなくとも中学生にはなれます。でも、あきらめずに進んでいったからこそ見える景色がある。中学受験に携わる大人として、その景色を気持ちよく見られるようにサポートしていきたい、そんな思いで読み終わりました。

子どもたちの目線の物語は思った以上に「リアル」です。何年生が読んでも良いですが、今年登場人物たちと同じ学年になる5年生は、特に色々な思いを重ねて読めるのではないでしょうか。

題名の「鐘」はこれまで頑張ってきた子どもたちを見守り、たたえる祝福の音。どうか今頑張る中学受験生たち全員の鐘が鳴りますように。

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