バーチャルとリアルの話(前編)【四方山理科話(よもりか)➀】

私が私立中高で教員をしていた頃の話です。

あるベテラン教員のひとりが教科会議の場で「最近の生徒たちはバーチャルに強いがリアルに弱い」と話していたことがありました。経験が浅かった当時の私は「ふーん、そういうものか……」と気にも留めなかったのですが、今になって「それは具体的にどういうことなのか?」とちゃんと聞いておけばよかったと後悔しているのです。

とはいえ私自身も経験を重ね、多くの小学生を指導してきて、もしかしたらこれがあの言葉の真意なのかな?と思うようなことも増えてきました。今回のコラムでは実際に私立中高で教鞭を執る先生方から伺ったエピソードも交えて、「バーチャルとリアル」について考えてみたいと思います。

オリオン座を見たことがない!?

星座の授業において、星の色は星の表面温度で決まることを受験生は学習します。

私はこれを説明するときに、ガスコンロの炎(青色っぽい→温度が高い)とろうそくの炎(オレンジ色っぽい→温度が低い)を例に挙げています。しかし、ある時期から「うちの家はIH調理器なのでガスコンロの炎は見たことがない」という話を聞くようになり、今までの説明では通用しないのかも……と少し困惑したことがありました。また、「オリオン座を見たことがない」という生徒も低学年にはちらほら。都会の空は狭く、夜でも明るいため、そもそも見ることができないと思い込んでいるようです。

このように授業や教科書で学んだことはあっても、実際に見聞きしたことのない(=実感を伴わない学びをしている)という生徒は年々増加しているように感じます。

プラスチックの器を火にかける!?

ある私立中高(共学校)では、中学2年までに年間100回(つまり2年間で200回)の実験をおこなっているそうです。特色ある取り組みの理由をお二人の先生に取材すると、「実体験の乏しい生徒が増えているから」とのこと。これは他校の先生との交流の中でもたびたび話題になっているそうです。

また、同校の理科部の顧問を務めていらっしゃる先生からは「合宿に行ったとき、自分たちで調理をするという課題を出したところ、貸したプラスチックの器をガスコンロに載せて火にかけようとした生徒がいた」というエピソードをお聞きしました。理科部に入るような中学生でも大人が慌てるような失敗をするのですから、実体験に乏しい子どもたちが机上の学習だけで理科に興味を持つことには限界があるよなと、お話を伺って感じたことを思い出します。

水は凍ると体積が1.1倍になることは知っているけれど…

先日、中学入試問題を作っていらっしゃる私立中高の先生方から、作問の意図などを伺う機会(勉強会)がありました。そこで、ある女子校の先生から「容器に入れた水が凍ったときの様子(図)を選べ」という問題の正答率が予想外に低かったことを伺ったのです。

知識として水が氷になるときには体積が1.1倍になる(重さは変わらない)ということは学習していても、いざ実際のようすを問われると分からない(実感と結びついていない)受験生が多かったようだと分析されていました。

これが「バーチャル(=テキストで学んだ知識/文字列)に強いが、リアル(実体験/映像)に弱い」の一例なのでしょう。

バーチャルとリアルを結びつけるには

前編である今回は、冒頭にご紹介したベテラン教員の言葉について私なりに考察していきました。

きっと彼は「机上で学んだ知識と実際の現象が結びついていない」と当時から感じていたのだろうと結論付けることとします。それは今になって私だけでなく、学校現場で中高生を指導されている多くの先生方も感じていらっしゃるようです。後編ではいかに「実感の伴った学びにつなげる(=バーチャルとリアルを接続する)」ことができるかについて考察したいと思います。

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