石田光規『「人それぞれ」がさみしい 』

「人それぞれ」と多様性

今回は、現代社会の人間関係について考察された本を紹介します。

「多様性を重んじる」 令和の時代になってますます聞かれるようになった言葉です。この本の初めにも「みんなちがって、みんないい」という金子みすゞさんの詩が引用されているように、世の中のさまざまな存在を受け入れ、それぞれの違いを認めようという意味で、ダイバーシティという言葉に置き換えられていることもあります。

本書では、多様性という言葉以上に日常の中で耳にすることもある「人それぞれ」という言葉を取り上げて、『一見、相手に受け容れられているようでいて、距離を置かれているような複雑な語感』があると説明しています。一見、相手を認め、尊重する雰囲気があるようにも思える言葉ですが、どのような点に「距離を置かれている」ように感じるのでしょうか。

人びとの行為や主張を「人それぞれ」と受け止める社会には、その言葉が発された瞬間から、対話の機会をさえぎるはたらきがある

石田光規『「人それぞれ」がさみしい ―「やさしく・冷たい」人間関係を考える―』

筆者はこのように、個を尊重する社会において、この言葉に頼りすぎることによって共感を伴う関係すら作れなくなってしまうと危惧しています。

「人それぞれ」のさみしさとは

日本は、戦後の集団的な社会から、経済成長を経て豊かさを増すとともに「個人化」が進んできたといわれています。物質的にも、精神的にも余裕ができたことにより、だんだん「個」を尊重することが求められてきました。あれもあり、これもあり、と自分の好きなことを追求できることは望ましい社会の形と思われてきたのです。

しかし、本書では第二章以降で、その自由さがもたらす不都合、隠れた息苦しさがあると指摘されています。人それぞれを認める代わりに、社会や他人に迷惑をかける人を良しとしない「迷惑センサー」が働き、攻撃される社会になってしまっている、と書かれています。個々人が「人それぞれ」好きなように選択したのだから、その結果についても自己責任、なにかあったときに他人に頼るのは甘えである、ということですね。こう考えると「人それぞれ」という言葉は、それ以上あなたには関わりませんというサインのようにも受け取れます。

4月は1年の中でも人間関係が動くことの多い季節です。前述のように、今の社会では、どんな人とどのように付き合っていくのかを個人が自由に選択できるようになりました。インターネット、SNSなどが広まり、相手の姿が見えなくともコミュニケーションが簡単に取れるようにもなりました。このように人との付き合い方の選択肢が増えたときにこそ、自分はどう振舞ったらいいだろう、良い関係とはどのようなものだろう、と立ち止まって考えてみることが大切だと考えさせられます。

「ともだち幻想」から学ぶ距離感

他者とのつながり、関係を考える一冊として小学生にも読んでみてほしいのが、この本の中でも取り上げられている、菅野仁さんの『ともだち幻想』です。集団生活を送る中で、自然と出てくる悩みや、心に湧き上がるモヤモヤが自分一人だけのものでないといことを教えてくれます。

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学校という場所では「みんな仲良く」「心を合わせて」という考え方が求められるような気がしてしまいますが、「それは幻想であり、気の合う人も気の合わない人もいて当然」と言い切ってもらえると心が楽になりますね。この本は、菅野さんが当時、娘さんが学校での友人関係に悩んでいたことをきっかけに書かれたとのこと。優しい語り掛けの口調で、一人で生きるという選択が可能になった現代だからこそ上手に「つながる」ことは難しい、と説きます。

同調圧力の居心地の悪さも書かれています。もしかしたら同調圧力というのは小学生にとっては初めて出会う言葉かもしれませんが、今までもやもやと不快だったことが、こういうキーワードを与えられることでスッキリすることがあります。知らない言葉に出会い、ヒントをもらいながら自分の頭の引出しに収めることができるのはまさに読書の醍醐味ですね。

どんなに親しい関係であると思っても、その相手は自分ではないという異質性を認めること、「適切な距離は人によって違う」ことを知ることで、「良いつながり」へのヒントがみえてくるのではないでしょうか。

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