2人の手紙を通して綴られた物語「ユニコーンレターストーリー」

手紙のやり取りで綴られた物語

今回紹介するのは、黒字にカラフルなイラストの表紙がかわいい、北澤平祐さんの「ユニコーンレターストーリー」というお話。北澤さんはイラストレーターとしてもご活躍されており、お菓子のパッケージや本の装丁、街中のポスターなどでも見かけたことがある方もいるかもしれません。

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そんな平澤さんが手がけた物語は、全ページにイラストとストーリーを組み合わせた贅沢な作り。主人公たち2人の手紙を通して物語を綴った、あまりみかけることがない構成になっています。次はどんな返事がくるかな、とページをめくるごとに、まるで自分あての手紙の封を切るようなドキドキ感。 離れたところにいても、相手のことを思いながら過ごした時間が手紙に詰まっているのです。

幼なじみの絆は海を越えて

1983年3月3日生まれ、誕生日が一緒でお笹馴染みとして育ったハルカとミチオ。10歳になってミチオがアメリカへ引っ越すことになり、2人の文通が始まりました。まだインターネットが普及しておらず、Eメールもない時代、小学生のハルカたちには手紙しかやり取りの手段がなかったのでしょう。

時代を感じさせるエピソードとともに綴られる日常

初めのうちは、ミチオが書くのはもっぱら慣れないアメリカ生活の話。そしてハルカは淡々と過ぎる日常をそれぞれのペースで送り合います。1999年のノストラダムスの大予言や世紀末にドキドキしたり、コンピューターからメールというものが送れるらしいと驚いたり、その時代を感じさせるエピソードも挟み込まれています。

「よかったら、ぼくらの文通、また紙の手紙に戻しませんか?」
「私たちたぶん、早生まれでなんでもゆっくりだから、インターネット時代についていけないのかも」

時代が進み、Eメールやチャットと連絡を取るための選択肢は増えるのですが、二人は一度は使ってみるものの、こんなかわいらしいやり取りの末、あえて手書きの手紙でやり取りすることを選びます。もう届いたかな、読んでくれたかなと、遠くの国に思いを馳せる間もあわせて手紙の時間。

目まぐるしく変化していく時代の中で、自分たちのテンポでつながり合う様子に手紙だからこそ伝えられる温かさ、封書ならではの親密さがあるというのを改めて感じます。

描き込まれたイラストを隅々まで楽しんで

ミチオがアメリカでの生活に慣れてくると、手紙の話題は多岐にわたります。ミチオのバンド活動のこと、ハルカの部活のこと、将来へ不安や迷い、友人や家族との関係のこと。手紙で相手に解決を求めるわけではなくとも、紙の上で気持ちを言葉にすることによって少し整理がついたり、先に進めたりすることがあります。

相手を想うばかりに手紙には書けなかったこと

しかし、こんなに心通じ合う2人の間でも、手紙に書かれなかったこと、相手を想うばかりに書けなかったことがあります。ミチオの手紙の下の方には毎回、彼が選んだ1曲の歌詞とコメントが、ハルカの手紙の下には、ミチオと一緒に拾った猫のハッチの絵が添えられているのに注目してみてください。

ちょうど思春期に差し掛かる2人、相手にいいところを見せたくて少し背伸びをしてみせたい気持ちと、幼い頃から変わらない相手を大切に思う気持ちが選んだ言葉や絵の端々から染み出てくるようです。

絵を通して立ち会う2人の「今」

そしてこの作品の醍醐味でもある見開きの左側にある一面のイラストは、文には表れていない2人の気持ちや 状況がたっぷり詰め込まれており、絵の隅々まで見渡すと、2人の「今」に立ち会えます。読者である私たちは、イラストを見ながらもどかしい気持ちを抱えながら見守るのみなのですが、平澤さんの柔らかく温かいタッチのイラストは眺めているだけでも幸せな気持ちになります。

さて、この先は絵を描くことが得意なハルカの絵が2人を次の展開へと導いてくれるのですが、続きはぜひ本を手に取って読んでみてください。さらっと読めてしまうボリュームですが、ゆっくり時間をかけて味わってほしい1冊です。本での物語は終わったとしても2人の物語はこれから先も続いてほしいなと、温かい気持ちになれること請け合いです。

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