斉藤洋『白狐魔記 源平の風』【読書で世界を広げよう】

きつねからみた人間の世界

この「読書で世界を広げよう」第7回の今回は、ちょっと不思議なお話をご紹介します。

今回ご紹介する『白狐魔記』シリーズの主人公は、人間ではなくきつねです。歴史ファンタジーといわれるジャンルで、史実に基づきながらも、物語仕立てのストーリーは読みやすく、興味があれば高学年でなくとも読めてしまうと思います。人間の世界がきつねの目を通して描かれるという独特の世界観。
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冒頭には、生きるか死ぬかというようなシーンもあり、臨場感のある描写に引き込まれます。歴史好きの子どもたちはもちろんのこと、歴史はちょっと苦手という人でも食わず嫌いをせずに手に取ってみてください。

きつね、化身の術を習得する

時代は遡って、源氏と平氏が争う時代。きつねというと人間を化かす、人間に化けるというイメージがありますよね。この本にでてくるきつねは、はじめから人間に化けられるわけではありません。白駒山という山にいる仙人に、化身の術を覚えるために修行を積ませてくれと自ら頼みます。

きつねとしては、滝に打たれて我慢するような辛い修行を思い浮かべていたのですが、修行なんてものはしたかったらすればいいという仙人の言葉に肩透かしを食らいます。仙人が修行について語った言葉がこちら。

「滝に打たれて、ああ、おれは苦しい修行をしているんだと思って、気持ちよがっているのだ。そんなものは、温泉につかって、ああ、いい湯だ、といっているのと変わりはない。」

きつねにとって大きな存在である仙人は、シリーズを通して出てくることになるのですが、真面目過ぎるきつねをからかいながらも、大事なことをさらっと口にするので侮れません。

序盤は、里の近くで聞き耳を立てながら人間の言葉を習得したり、人間の姿でしばらく過ごしたりと、化身の術を覚えるのに一生懸命なきつねの様子がほほえましい展開です。自然体で飄々としている仙人との対比にほっこりします。

きつね、人間探究の旅に出る

化身の術を覚え、晴れて仙人に「白狐魔丸」と名前をもらったきつねは、山から人間の住む里へ下りていきます。姿かたちは人間になったとはいえ、心は元のきつねのままのわけで、人間との会話での生真面目なきつねの受け答えにくすりと笑ってしまうこと請け合いです。

好奇心の赴くまままに人間に関わっていくきつねは、次第に、人間は「食べるため」ではないのになぜ殺しあうのか、どうして負けるとわかっているのに戦うのか……と疑問を抱くようになります。

「きつねにとってもはじめての経験だった。人間が弓で殺そうとするものは、きつねや鳥にかぎらない。人間たちは、おなじ人間たちに弓をむけ、殺しあうということ。」

そんな中で白孤魔丸が出会ったのは、源平の戦いの最中、兄頼朝に追われる源義経の一行でした。

人間の「仇討ち」の心理は、きつねの心には理解しがたいものでしたが、彼らと関わり、話すうちになんとかしてあげたいと気持ちが動きます。このあたりの、人間よりも人間臭く、義理堅いところもきつねの魅力の一つです。読んでいるうちに、いつのまにかきつねに感情移入してしまうのではないでしょうか。

シリーズもののお楽しみ

義経の一行と離れた後、きつねは白駒山へ戻り、永い眠りにつくことになります。その眠りから覚めるところから次のお話が始まるのです。

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こちらのシリーズは現在7巻まで続いていますので、今後、白狐魔丸がどんな人物に出会い、何を思うのか、続くシリーズのタイトルから予想してみるのも楽しいと思います。ちなみに2作目のタイトルは『蒙古の波』、歴史に詳しい子はピンと来るかもしれませんね。愛着のある登場人物(きつね)との時間を長く楽しめるのはシリーズ物の醍醐味ですので、時代の移り変わりとともに堪能してくださいね。

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