部活がテーマの青春小説――こまつあやこ『ハジメテヒラク』

部活がテーマの青春小説

小学校と中学校の仕組みの違いの一つに、部活動があります。中学一年生はちょうど仮入部の時期も終わり、活動が始まったころでしょうか。部活は、クラス関係なく特別な友だちができたり、学年をまたいで先輩後輩という関係ができたり、普段の教室では得られない経験ができる場所です。試合や大会、文化祭やその他校内イベントは部活単位で行われることも多いですね。

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今回は中学一年生の女の子が、中学生になって部活をどうしようと悩むところからお話が始まります。クラスメイトに誘われて、運動部のマネージャーの見学にいくもののちょっと違うなぁと思っていたところ、ひょんなことから廃部寸前だった生け花部に入ることになります。

趣味は「脳内実況」!?


パラパラっとページをめくってみると、黒く太字で書かれた部分とそうではない部分があることに気づくと思います。実はこの黒い太字の部分は、主人公のあみの頭の中。周りを見ながら感じたことを「脳内実況」と称して脳内でアナウンスすることを趣味にしているのです。

あみは小学生のとき、友人の恋愛を応援しようとしてつい口を滑らせてしまい、そのことが原因で仲間外れにされてしまいます。そんな辛い気持ちで過ごしていときに、学校で「脳内実況」をしてみたら?と、救世主になってくれたのが、あみの家に居候していた年上の従姉の早月ちゃんです。

声に出すからこそわかるリズム感

友だちと遊びに行けず家で落ち込んでいたあみは、競馬の実況アナウンサーを目指す早月ちゃんに競馬場に連れ出され、実況アナウンスの面白さを教えてもらいます。そして、たとえクラスの輪から外れてしまっていたとしても、逆にその輪を外から見ているように実況してみると面白いよとアドバイスされたことで、少しずつ目に映る景色が変わってきます。

本を手に取った際には、あみの脳内実況中継のところをぜひ音読をしてみてください。声に出すからこそわかる軽快なリズム感、言葉の並びの楽しさというのを感じられると思います。

『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』

作者のこまつあやこさんは、以前のコラムで触れたこともある短歌を題材にした小説、『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』を書かれた方です。

二十四節気、七十二候の言葉も随所に登場して季節の移り変わりも楽しめますし、一つ一つの言葉が大切にされた文章は読み進めるのが心地よいですね。

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部活を通して成長する

同じ年齢の集まりであるクラスとは違い、先輩の語る将来の夢の話から見えなかった一面を知ったり、放課後の時間を共に過ごすからこそ気づく気持ちがあったり、と部活ならではの刺激がありますよね。それぞれに個性的な生け花部のメンバーは、一見バラバラのように見えますが、文化祭のステージという一つの目標に向かってまとまっていきます。

『友達だからって、ぎゅっと重なり合うように一緒にいなきゃいけないわけじゃない。』
『わたしにだっていろんな一面があって当たり前なんだ』

生け花部での活動を通して色々なことに気づき、成長していくあみの様子は、読みながら応援してあげたくなります。この本全体を通して、誰かを応援したい!という気持ちが溢れているようなあたたかい感じがします。

ほんの小さな事でも「あぁどうしよう、もうだめだ」とくよくよと悩んでしまう気持ちや、周りの人の言動が気になって、あれこれ気を揉んでしまうような気持ちは思春期ならではのもの。同年代の子どもたちが読んだらわかるわかると共感するところも多いのではと思います。

『部活魂! この文化部がすごい』

部活動をテーマに取り上げた本をもう1冊紹介します。部活はそれぞれの学校のカラーを表しているようにも思えるくらい、学校によって種類、規模、活動の様子は色々です。

読売中高生新聞編集室 『部活魂! この文化部がすごい』 ちくまプリマー新書

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この本は実際にある学校の文化部の部活を取り上げたものです。誰もが経験する部活に取り組む等身大の高校生を主役にしたノンフィクションでありながら、小説風に書き上げられた連載が元になっています。

百人一首部や手話部、変わったところでは雑草研究会やバルーン部、など活動が想像できないような名前のものまで全部で16の部活が紹介されています。運動系の部活に比べて、一見地味な印象を持たれがちな文化部ですが、タイトルの通り「部活魂!」がぐっとつまった熱い1冊です。

この本で取り上げられているのは高校生ですが、「中学に入ったらこんな部活に入りたい! こんなことも自分たちでできるんだ!」と、学生生活が楽しみになること間違いなしです。

部活は中学受験の志望校選びの一つの切り口にもなりますよね。ぜひわくわくする気持ちで読んでみてほしいと思います。

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