理科の目で見てみよう① レンゲの田んぼを荒らさないで!

先日、イネなどを育てる農園を営む方の「レンゲの田んぼが荒らされた」という悲痛な書き込みをSNSで目にしました。どうやら無許可で立ち入り、踏み荒らした人たちがいたようです。

人の所有地に断りもなく入ること自体が問題ですし、大切に育てていたレンゲを荒らすなど言語道断です。農園の方がびんでなりません。

田んぼにレンゲを植える理由


今ではほとんど見られなくなりましたが、田植え前の田んぼにはレンゲ(標準和名は「ゲンゲ」)が一面に咲いていました。これは自生しているのではなく、ある目的によって種をまいて育てられたものなのです。
※自生…植物が人の手によらず、その地域に自然に生え育つこと。

では、なぜイネを育てる前の田んぼにわざわざレンゲを植えているのでしょうか。これにはきちんとした理由があるのです。

マメ科の植物

レンゲはマメ科の植物です。
他にも中学入試に問われるマメ科をチェックしておきましょう。

マメ科……エンドウ・ダイズ・ソラマメ・シロツメクサ・スイートピー など

マメ科の植物は離弁花(花弁が1枚ずつ取り外せる花)です。そして、5枚の花弁はチョウのような形になるので「ちょうけい」とも呼ばれています。

根粒菌によってできるコブ

これらマメ科の植物を土から引き抜いてみると、何やら根に「コブ」のようなものがついていることに気付きます。実はこの「コブ」はこんりゅうきんという微生物が入ってできたものです。

根粒菌は空気中のちっ素を取り込んで、植物が肥料として利用可能なアンモニアに変えるはたらき(窒素固定)をしています。

これにより、マメ科の植物は根粒菌がつくったアンモニアを供給してもらうため、やせた土地でも育つことができるのです。

さらに、健康に育ったレンゲとともに田んぼを耕せば、アンモニアが土に溶け出し、土地を肥やすことに役立ちます

これが田植え前の田んぼにレンゲを植える理由であり、「りょく」と呼ばれる所以ゆえんとなっています。

念のために植物に必要な三大肥料を復習しておきましょう。

三大肥料……窒素(葉や茎)・リン酸(花や実)・カリウム(根)

農家の方の「レンゲの田んぼが荒らされた」という投稿は、土の養分が不足し、お米作りに支障が出てしまうということを憂慮ゆうりょしてのものだったのです。

マメ科植物と根粒菌の関係

レンゲをはじめとする「マメ科植物」と「根粒菌」は、共存することでお互い利益を与えあっています。このような関係をそう共生と呼んでいます。有名なものではアリアブラムシ(アリマキ)の関係です。アリはアブラムシの腹部の先から出る甘い汁をもらうために、アブラムシの天敵から保護しています。

クマノミとイソギンチャクの相利共生

また、映画「ファインディング・ニモ」に登場するクマノミも、イソギンチャクと相利共生の関係にあります(片利共生=クマノミだけに利益があるとする説もあります)。

クマノミはしょくしゅどくを持つイソギンチャクにかくれることで天敵から身を守り、イソギンチャクはクマノミが食べ残したプランクトンなどを取り込むことで成長を加速させているといわれています。

※クマノミはホンソメワケベラとともに性転換する魚類としても有名です。その話はまたの機会にご紹介しましょう。

マメ科植物の花のつくり


チョウのような形をしているマメ科の花を見てみると、おしべもめしべも花弁に包まれているため見えません。しかし、みつを求めてやってきたミツバチなどのこんちゅうが花にとまると、下側の花弁(りゅうこつ弁とよく弁)が押し下げられて、おしべとめしべが現れます。

レンゲは1本のめしべと10本のおしべ(9本は根元がくっついている)がたばになっていて、先は曲がっています。

このつくりは

昆虫のからだに花粉をつけること
めしべの柱頭に(昆虫によって運ばれてきた他の花の)花粉をつけること

の2点において受粉を効率よくおこなうのに適している考えられます。

虫媒花と風媒花

先述のレンゲの田んぼも荒らされていなければ、みつを集めて次から次へと花を移動するミツバチなどが飛んでいたことでしょう。彼らは知らず知らずのうちに花粉まみれになりながら、レンゲの受粉を手伝っていたのです。このように、昆虫によって花粉が運ばれる花を虫媒花といいます。

虫媒花の特徴をまとめておきましょう。

  • 花のようす……大きくて目立つ(派手),においがある,みつが出る
  • 花粉のようす…ベトベトしている,とげや毛がある

虫をおびき寄せるための花弁を持つ植物の多くが虫媒花です。花粉は虫につきやすいつくりになっています。

花粉が風に運ばれる花を風媒花といいます。こちらもあわせて確認しておきましょう。

  • 花のようす……小さくて目立たない(地味),においがない,みつは出ない
  • 花粉のようす…小型で風に飛ばされやすい,大量につくられる

マツ,スギ,トウモロコシなどが風媒花です。花粉症の原因となるような植物は風媒花ですね。

実はそれって理科かもしれない

昔の人は「稲妻いなずまひと光で稲が一寸いっすん伸びる」と言っていました。
雷の多い年はお米が豊作になると信じられていたからだそうです。一寸は3cmですから少し大げさではありますが、この言い伝えには科学的根拠があります。

それは「雷が肥料をつくる」というものです。雷による放電によって空気中の窒素が空気中の酸素と結びついて窒素酸化物となります。雨に溶けた窒素酸化物は土にしみこんで植物が利用可能な肥料となり、イネの成長を促進させるのです。

さらに、雷をもたらす積乱雲は、イネの生育に必要な気温や日照の条件のときに発達しますし、雷とともに十分な雨を降らせますので、お米が豊作になるのもうなずけます。

無関係に見えるものが結びつく

一見すると無意味/無関係に思える「田んぼのレンゲ」や「雷とイネの成長」も、実は理科で学習する知識や現象で結びつけることができ、意味を持つのだと分かります。

私たちの身の周りの意外なところにも理科(科学=サイエンス)が隠れているかもしれません。
受験勉強だけにとどまらず、興味を持った「なぜ?」を考えたり調べたりして、様々な分野と関連/融合/深化させていくことで、さらに解像度の高い受験生になれるはずです。

次回の記事でも「もっと理科を勉強してみたい」と思えるような話題をご紹介する予定です。お楽しみに!

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