魅力あふれる辞書の世界を作り上げる”ことばハンター”の辞書作り

辞書作りの裏側を描いたノンフィクション

今回は三省堂国語辞典の編者である飯間浩明さんが国語辞典の作り方を書いたノンフィクションを紹介します。

表紙をめくると、「ことばハンター」という言葉の下に、その意味が書いてある変わった表紙が出てきます。

「だれよりもことばが好きで、この本を通じてあなたに言葉の世界のおもしろさを伝える人。」

人生のほぼすべてを辞書づくりに捧げてきた著者が、国語辞典やことばの魅力あふれる世界を楽しそうに語ってくれます。ポプラ社ノンフィクションというシリーズのうちの1冊で、もともと子ども向けに書かれていますので文体もとても読みやすいです。

言葉の地図ともいえる辞書に載せる言葉をどう集めて、どう説明するのかについてとにかく具体例が多く、写真も豊富で、いわゆる「お仕事本」として楽しく読めるのではないでしょうか。

「ことばハンター」として辞書に載っていないことばを日々ハントする

飯間さんは国語辞典の編集委員「ことばハンター」として看板・貼り紙・刊行物・ネットなどで辞書に載っていない言葉を日々ハントしているそうです。

日常の中で言葉に向き合い、日々どんな言葉が生まれ、どう使われているのかをつぶさに「観察」する。気になる言葉に出合ったらすかさず撮影ないしメモを取る。そして用例とともにテキストファイルに記録する。そんなふうにして生活の中で出会う言葉が丹念に集められています。

言葉という目に見えないものでありながら、観察、記録する流れを聞くと、まさに題名にもある「ことばハンター」という言葉がしっくりきます。ことばの変化を当然に受け入れるのは大事なことだけれど、一度立ち止まってその言葉に向き合ったり振り返ったりすることで新たな気づきがありますね。

言葉を正しいか間違っているかというだけで価値判断しないでほしい


本からは、言葉を正しいか間違っているかというだけで価値判断しないでほしいという飯間さんのメッセージが強く伝わってきます。

「言葉を使う上で一番大事なことは、その言葉が相手に届くかどうか。」

言葉の意味は時代によっても、状況によっても変わります。「正しい」とされる言葉を使っているから大丈夫、と安心するのではなく、その言葉で相手に本当に言いたいことが伝わるのか、誤解を生まないか、ということに注意を向けて、伝わる言葉を使うべきと語られます。

辞書の役割は「人と人とがことばをやりとりするための、手助けをすること」

インターネット上で、言葉の使い方がおかしいと思われるものを見つけた途端に、鬼の首を取ったかのように批判するような事を見かけることがありますが、その言葉が数年後にも今の用法のまま使われているとは限りません。

私たちが辞書を手に取るときは、「正しい」日本語を知ろうとしてのことが多いと思います。でも飯間さんの考える辞書の役割は「人と人とがことばをやりとりするための、手助けをすること」だそうです。国語辞典は今の世の中の多数派のニュアンスが反映されているものであり、現実の言葉の使い方に辞書の方が後からついていくという目線は新鮮ですよね。辞書が時代を映す鏡とも言われるのにも納得です。

国語辞典はみんな同じわけではない

辞書によって言葉を載せる際の方針も異なるといいます。

例えば、日本語に対して極めて保守的ということで知られる『岩波国語辞典 』(岩波書店)においては、収録語の目新しさよりは用法の丁寧な解説を重視しているのですが、飯間さんが携わる『三国』は、「今の日本語」というところに拘り、比較的柔軟なスタンスを取っているといわれています。

正しいか間違っているかが大事ではない

2013年発売の第七版の序文には、「昔から変わらないことばはもとより、新しく生まれたことば、意味や形が変わってきたことば、誤解されていることばなどもありのままに記述」することが書かれており、俗用とされる「ら抜きことば」もそれとわかるように示されています。正しいか間違っているかが大事ではない、という方針がここからも見えてきます。

家にいくつもの辞書があるという人は少ないかもしれませんが、書店や図書館など辞書が並んでいる場所で、同じ見出し語をひいてみると違いが見えて楽しいのではないでしょうか。

三浦しをん『舟を編む』

ちなみに、辞書を作る話と言うと、三浦しをんさんの小説 『舟を編む』を思い出す方も多いかもしれません。国語辞典の編集部を舞台にして、人付き合いが苦手な編集者の青年が、仲間たちと新しい辞書を作っていくというお話です。

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飯間さんが監修をされたアニメ版『舟を編む』では、画面に映る辞書のページのために、架空の辞書を一からを作られたそうです。辞書作りに興味を持たれた方は、ぜひ小説にも目を向けてみてくださいね。
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