子どもから大人まで楽しめる児童文学の総合誌『飛ぶ教室』

児童文学の冒険『飛ぶ教室』

今回は『飛ぶ教室』という、季刊の児童文芸誌を紹介します。

「飛ぶ教室」という言葉を聞いて、ドイツの児童文学者エーリヒ・ケストナーの名作を思い出した方も多いのではないでしょうか。まさにケストナーの作品の名前を冠した、子どもから大人まで楽しめる児童文学の総合誌として、光村図書から出版されています。

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1981年に創刊されて40年以上、多くの有名作家を輩出し、幅広いジャンルの書き手による童話や短編、絵本の書き下ろし、評論やインタビューなど、読み応えある企画が満載です。 毎号、特集テーマが設けられ、「わたしとともだち」「うそ」「ひみつのはなし」など、小学生に馴染みがあるようなわかりやすいものから、「1ダースの超短編」「七色のお話」など面白い切り口のものまで様々です。

中学受験の模試や入試問題の出典にも

中学受験の目線で見てみると、掲載された作品はこれまで麻布中、ラ・サール中をはじめ多くの学校で出題されてきました。どの号も読みごたえのある名作がそろっていますが、ここでは、中学入試の模試や入試問題として何度も取り上げられた2019年冬号の作品、そして最新号である2023年夏号で連載が終了し、9月に本として出版される新しい作品の2作を取り上げます。

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光村図書出版
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転校生の気持ち、残された側の気持ち

「転校生」というのは児童文学ならではのテーマですね。転校生が主人公なこともあれば、転校生を受け入れる側、送り出す側それぞれの思いが描かれたものもありました。

中学受験の問題で何度も出題されてきた市川朔久子「夜空に結ぶ」

その中でも中学受験の問題として何度も使われていたのが、市川朔久子さんの「夜空に結ぶ」です。今年度の入試では神奈川の山手学院で出題がありましたし、サピックスの模試や四谷大塚の合不合判定テストでも扱われました。

このお話は、主人公の芽久の目線で、転校してしまった親友・花梨や、新しく転校してきた女の子・川瀬さんとの関係がつづられます。花梨とは転校前と同じようにLINEのやり取りを続ける中、グループで仲が良かったこれまでの友人関係も少しバランスが崩れ、学校に行くたびに花梨がいないことを実感してしまいます。

近い関係だからこそ気づく「相手の変化」

送られてきたLINEの文字変換のミスで、相手に自分より仲の良い友達ができてしまったことを知るというエピソードがあるのですが、今の時代の小説だなぁと感じます。近い関係だからこそ相手のちょっとした変化にも気づいてしまうのですね。

芽久にとって、花梨が新しい環境になじみ始めたというのは喜ぶべきことと頭ではわかっているはずなのに、花梨が知らない世界に行ってしまった寂しさを感じます。

女子同士の友情関係、心情の機微の理解は精神年齢によるところも大きく、こういった本を通して体験して欲しいところです。短編ですから、女子の気持ちなんてわかんないよ!という男の子にこそ読んでほしいなと思います。

連載の醍醐味を味わう


もう一つ紹介するのは、『飛ぶ教室』にて全7回にわたって連載された、戸森しるこさんの「ココロノナカノノノ」というお話です。今年の春号で最終回を迎え、2023年9月に新刊として出る予定です。雑誌の中には連載ものがいくつも載っているので、好きな作家さんや作品を追いかけて読むというのも楽しみ方の一つです。

双子の妹を亡くした中学1年生が主人公の戸森しるこ「ココロノナカノノノ」

『ココロノナカノノノ』は、生まれる前に双子の妹・野乃を亡くした寧音という中学一年生の女の子が主人公です。中学1年生の今も、心の中にいる野乃に話しかけたり、心の拠り所としたり……特別な存在として思い続けているのですが、まわりの友人たちにはそのことを話せていません。

新しい妹の誕生を前に変化する思春期の繊細な心

そんなある日、母である奈菜ちゃんのおなかに新しい命が宿ったことを知り、新しい妹の誕生を前に寧音の気持ちも少しずつ変わっていきます。自分だけに感じられる双子の妹・野乃の存在は寧音にとってはとても大きく、妊婦の母の話や、友人からの言葉に、思春期の繊細な心が揺れ動きます。

2023年度の洗足中学校では、こちらの連載より主人公と家族のやりとりの場面が、香蘭女学校では仲良くしている友人たちと出かける場面が出題されました。9月に本が出版されたらぜひ手にお取りいただき、主人公たちの細やかな心情の動きを味わってみてください。

雑誌だからこそ気軽に好きなところから読むことができる

色々な書き手の作品がたくさん詰まっており、気軽に好きなところから読めるのが雑誌の魅力です。2023年夏の最新号の特集は"10編の超短編"、400字詰め原稿用紙5枚ほどに綴られた10のお話だそうです。ぜひ新しいお話の世界との出会いを楽しんでください。

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