女の子同士の友情物語の新定番2冊――『文通小説』『終点のあの子』

女の子同士の友情物語の新定番

入学式のシーズンを迎え、新年度の新しい空気を感じる季節になりました。

今回紹介するのは、眞島めいりさんの『文通小説』というお話です。眞島めいりさんの小説を紹介するのは1年ぶり、2回目となります。1度目は『みつきの雪』という静かな長野の山村を舞台にした高校生の物語でした。今回は、二人の制服の少女が向かって手紙を書いている、かわいらしい装丁のカバーが目を引きます。

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中高生という言葉で6年間を一まとめにして扱うことも多いと思いますが、この時期の1年間はとても濃厚なものですよね。眞島さんならではの丁寧な筆致で、思春期の女の子の、揺れ動く繊細な気持ちをとても丁寧に描いたお話です。

登場人物の相関関係を掴むのが苦手でもお勧めできる1冊

登場人物はごく少なく、主人公であるちさとの一人称で語られますので、登場人物の相関関係を掴むのが得意ではない子にもお勧めできる小説です。

本をなかなか手に取らない子には、ストーリーやテーマだけではなく、こういった登場人物の目線にも注目して読みやすいものを選書してあげると読み切れることがあります。

文通でつなぐ友情の行方

中学3年生の女の子、ちさとは、中学2年の最後の日に、親友である貴緒から引っ越すことを聞かされます。

元々、苗字で呼び合うただの同級生だった2人の仲が近づくきっかけになったのは、ほんの小さなことでした。学校の規則に従わず、長い髪を束ねずにいた貴緒が担任の先生に注意された時に、ちさとが貴緒をかばったことで、二人の距離は縮まります。ショートヘアのちさとと長い髪がトレードマークの貴緒。外見は正反対でも互いに打ち解け合った2人は、多くの時間を共に過ごすようになります。

LINEではなく文通を通して変化する距離感

かけがえのない友人と思っていただけに、最後の最後まで引っ越しのことを伝えてくれなかったこと、自分の隣から急にいなくなってしまうことにショックを受けるちさと。貴緒からは、これからはLINEで連絡を取るのではなく、文通をしたいと提案を受けます。

そうして始まった文通は、思ったことや日常をたくさん綴るちさとに対して、絵に一言添えるだけの貴緒、ちさとにとっては、一緒に過ごした時間はどんどん遠いものになり、2人の距離が離れてしまったように感じてしまいます。

「一緒にいたいと言いながら、わたしはいつも自分のことにばかり夢中だった」
「同じものを選んで、同じ場所にいれば、ずっと友達でいられるって信じこもうとしてた」

お互いに友達は1人ではないと思っていながらも、自分にとっても相手にとっても一番の友達であってほしいというわがままな気持ち。自分はこのくらい思っているのだから、と相手に色々と見返りを期待してしまう気持ち。

クラスの友人達や貴緒とのいくつものやりとりを経て、ちさとはそんな自分の心に気づき、向き合っていきます。今回のお話は、友情や進路、親との関係や学校でのささやかな日常の中で、女の子同士の独特の距離の近さ、大人から見ると近寄りすぎて危うい感じなどが非常にリアルです。

オムニバス形式で語られるクラスメイト同士の関係性

今の子どもたちは、文通を知っているでしょうか。扱われている友情というテーマは定番のものなのに、なんだか新鮮な感じがするのは、モチーフとして取り入れられた「文通」の効果かもしれません。

本文の中には2人の手紙の文面がそのまま載せられています。郵便受けで自分の宛名が書かれた手紙を見つけたときのワクワク感、自分の出した手紙がそろそろ届くかなと思いを馳せる時間も楽しいものですね。

柚木麻子『終点のあの子』

同じようなテーマの本として、女性同士の関係性を書くのが非常に上手な柚木麻子さんの『終点のあの子』をおすすめします。ご自身も恵泉女学園のご出身で、女子校の中の人間関係の描写は生々しいくらいです。

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オムニバス形式で語られるクラスメイト同士の関係性

『終点のあの子』は私立のプロテスタント系キリスト教教育をする女子校が舞台で、仲が良かったクラスメイト同士の関係がこじれ、いじめが起きてしまいます。

同じクラスの女の子がそれぞれの章の主人公として書かれるオムニバス形式のため、様々な視点から一つのクラスを俯瞰するように読むことができますし、スクールカーストをはじめ、できれば避けて通りたいようなぶつかり合いも赤裸々に描かれています。

2023年度の開成中で出題された「フォーゲットミー・ノットブルー」

この中の1つ、「フォーゲットミー・ノットブルー」は2023年度の開成中の入試問題にも取り上げられました。クラスメイトへの憧れ、嫉妬、焦燥感……小学生の男の子が普段の生活ではとうてい感じえない感情の読み取りが問題となっており、苦戦した子も多かったのではと思います。

小学生にとって、異性が主人公の物語は感情移入がしにくいところもあり、手に取りたがらないかもしれませんが、ぜひこの機会に読む本の幅を広げてみてください。

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