名門校の「本の差し出し方」:日経BPマーケティング『名門校の本棚』

名門校の「本の差し出し方」

新しい年を迎えました。こちらのコラムでは今年も、中学受験を考えるご家庭が一冊の本との出会いを通して視野を広げていけるよう、さまざまな良書をご紹介していきます。

日経BPマーケティングから2025年11月に刊行された『名門校の本棚』は、名だたる難関校の先生方が「生徒に薦めたい本」 を先生方自らの言葉で紹介した一冊です。

ブックガイド×教育・価値観

内容としては読書のガイドブックでありながら、各校の教育観や価値観が先生方の推薦本を通じて浮かび上がってきます。

掲載校は開成、豊島岡女子、灘,国際基督教大学(ICU・高校)、フェリス女学院、広尾学園、渋谷幕張、聖光学院の8校。

元々は日経BPのウェブメディアで連載のあった「名門校の推薦図書」を編みなおしたものとのこと、それぞれの章が独立して読み応えがあるのも納得です。

見知らぬ本と出会うことの価値 ―プロローグよりー

プロローグは作家の伊与原新さんによるもので、ご自身の人生をたどりながら、読書の本質や価値を改めて問い直すものとなっています。

思考の深さや心の豊かさを育てる読書

伊予原さんが身を置いた学問や文芸の世界を森に例え、こんな言葉を贈ってくださいました。少し長くなりますが、まさに本との出会いの価値はここにあると感じさせてくれるものですのでお読みください。

小説に限らず、何か新しいものを創り出すために重要なのは、系統だったひと筋の知識ではなく、縦横に網のように広がった知識と関心だ。一見無関係に思われる事物が有機的に結びついたとき、そこにアイデアが生まれる。
それは、同じ木ばかりが軽然と並ぶ植林地よりも、雑多な植物が生い茂る原生林のほうが複雑な生態系を育むことに似ている。種々の落ち葉や柄ち木を無数の虫や微生物が土に還し、豊かな養分を得て雑多な植物がまたそこに芽吹く。その循環の中にこそ、今まで見たことのないような芽が不意に顔を出すのだ。

本書に掲載された学校はいずれも単なる知識習得を超えた、思考の深さや心の豊かさを育てることを大切にしている学校ばかり。単純なやさしい読み物ではなく、時に哲学書や戦争、社会問題を扱う重めのテーマの本も含まれているのはこのような背景があるからでしょう。

相性の悪さを感じることも価値あるやり取り

また、紹介される本には、先生方それぞれのそれまでの読書経験が色濃く表れています。その意味では提示された本が「ちょっと違うな、合わなそう」と感じることもあるかもしれません。でも自分ひとりでは出会わなかった本を前にそう感じること自体が価値あるやり取りの一つだと思うのです。

「賢い」と言われる子が読書家とは限らない

いわゆる難関校の生徒たちが必ずしも読書家であるとは限りません。特に灘のように理系分野に強い学校 では、数学や理科の思考を優先して読書が二の次になるケースもあります。そうした子どもたちにも、読書の価値をどのように伝えていくのか、先生方の工夫が色々なところに垣間見えます。

生徒たちの興味関心・違和感を呼び起こす

灘の先生は、「生徒たちを国語嫌いにさせておくわけにはいかない」 「読書を通じて自分の中で問いを持てる人であってほしい」と話します。

人間は興味や関心がないものに対しては問いを持つことができません。生徒たちの興味関心、あるいは違和感を呼び起こすためのヒントや材料をたくさん準備する必要があるというのです。

それぞれの学校の建学の精神や教育理念を踏まえたアプローチは、本当に様々で、学校説明会だけではわからない価値観や現場の姿が見えてくるはずです。

大切なのは、大人が本を差し出し続けること

こうして先生方の本の差し出し方を見てみると、子どもたちに気に入ってもらえるか、ということよりも「出会って欲しい」という思いの強さを改めて感じます。

多感な時期の生徒たちにとって、親以外の大人から手渡される数々の本は、見たことのなかった世界へと視野を広げ、社会との関わり方を深めるきっかけになっています。家庭で本を与える際にも、大人が読ませたい本を普段読む本と同じ場に置いておくなど、大人の思惑ありきの差し出し方も良いのではないでしょうか。

良質な読書は子どもの思考力や想像力を育むための大切な土台になる

最後は、伊予原さんのプロローグの言葉をもう一度お借りして締めくくりたいと思います。

無駄な読書というものはおそらくない。人生になにが起きるか、世界がどう変わるか、そのとき何が必要になるかはわからないのだから

質の良い読書は子どもの思考力や想像力を育むための大切な土台となります。
ぜひ本年も皆様にとって良き本との出会いが多くありますように。

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