【読書で世界を広げよう】AI時代を、本から考える――人が「考えること」「書くこと」の意味

齊藤美琴先生が、子どもたちの世界を広げてくれるおすすめの本を紹介する連載企画「読書で世界を広げよう」。

今回、齊藤先生が取り上げるのは「AIの時代」です。中学入試の過去問をきっかけに出会った『AIの時代を生きる』『AIの世界へようこそ』『AIに書けない文章を書く』の3冊を手がかりに、AIとともに生きるこれからの未来を考えます。

生成AIが文章を書き、絵を描き、問いにも答えてくれる時代だからこそ、人が「考えること」「自分の言葉で書くこと」には、どんな意味があるのでしょうか。本から本へと問いをつなぎながら、齊藤先生と一緒に考えてみましょう。

開いた本から、森や街、宇宙やクジラの世界が広がる水彩調のイラスト
読書から広がる世界(生成AIによるイメージ)

過去問から出会った「AI」というテーマ

中学入試の過去問にあたっていると、その時代に社会でどんなことが考えられていたのかが、問題文を通して見えてくることがあります。

2021年前後の問題を見ていると、目につくようになったテーマの一つが「AI」でした。人工知能によって私たちの暮らしはどう変わるのか。仕事はAIに奪われてしまうのか。人間にしかできないこととは何なのか。

今ではすっかり身近になった問いですが、当時はどこか「少し先の未来」について考える文章として読んでいたように思います。

5年前に読んだ「未来」が、もう日常になっている

そんな過去問を辿るなかで、改めて手に取ったのが、美馬のゆりさんの『AIの時代を生きる――未来をデザインする創造力と共感力』です。

2021年に出版された本書を、AIが私たちの日常にすっかり入り込んだ2026年に読むと、少し不思議な感覚になります。

刊行当時、本書ではすでに、AIによって暮らしが便利になることへの期待がある一方で、仕事を奪われるのではないかという不安も語られていました。同じ年には中学受験塾のテストでも取り上げられており、当時この文章を読んだ子どもたちにとっては、未来について考えるきっかけになったのではないでしょうか。

それから5年が経ち、今では生成AIと日常的に会話をしたり、調べものをしたり、文章を書かせたり、画像を作ったりすることもできます。当時は未来のこととして思い描かれていたもののうち、すでに私たちの生活の一部になったものもたくさんあります。

『AIの時代を生きる』――「創造力と共感力」で未来をつくる

本書で、人とAIがよりよい未来をつくるための鍵として語られるのが、「創造力」と「共感力」です。

多様な視点を持つこと。自分とは異なる立場の人を想像すること。そして、自分が何を面白い、美しい、大切だと思うのかを持つこと。

本やノート、未来の街の模型を囲み、意見を交わす人々の手元と後ろ姿を描いた水彩調のイラスト
創造力と共感力で未来を考える(生成AIによるイメージ)

「AIに何ができるか」から「私たちは何をしたいか」へ

「AIに何ができるのか」だけではなく、「そのAIを使って、私たちは何をしたいのか」

問いの主語を人間に戻してみると、5年前に書かれた本書が今なお示唆に富んでいる理由が見えてきます。

AIの技術がどれほど進んでも、それを何のために使うのか、どんな未来をつくりたいのかを考えるのは人間です。

そう考えると、「創造力」と「共感力」という言葉は、AIが身近になった今だからこそ、いっそう重みを持って感じられます。

子どもたちと一緒に読みたい『AIの世界へようこそ』

美馬さんは、生成AIが急速に身近になった2024年、今度は小学校高学年から読める『AIの世界へようこそ――未来を変えるあなたへ』を出版しています。

AIの仕組みや歴史だけでなく、生成AIやそのリスク、さらに「AI時代の幸せとは?」「どんな未来を創りたいか」といった問いまで、豊富な図やイラストを使ってわかりやすく解説した一冊です。

AIを知ることから、未来を考えることへ

本書は翌年、第40回電気通信普及財団賞「テレコム学際研究賞」の特例表彰を受賞しました。AIの仕組みだけでなく、そのメリットや危険性を子どもたちにわかりやすく伝えようとした点も高く評価されています。

AIについて知識を得るだけではなく、「その技術とどう付き合うのか」「自分はどんな未来をつくりたいのか」まで考えていく

子どもたちにとって、AIというテーマから自分たちの生きる未来へと視野を広げてくれる一冊だと思います。

大人と二人の子どもが後ろ姿で一緒に本を読み、未来の街を想像する水彩調のイラスト
本を通して、AIとこれからの世界を学ぶ(生成AIによるイメージ)

『AIに書けない文章を書く』――人が書くことを考える

では、AIが実際に言葉を操り、私たちの代わりに文章まで生み出すようになった今、人が自分の言葉を持ち、自分で文章を書くことには、どんな意味があるのでしょう。

やはり試験問題にあたる中で出会ったのが、2025年3月刊行の前田安正さんの『AIに書けない文章を書く』です。

著者の前田さんは朝日新聞で校閲部長などを務め、長年ことばと文章に向き合っていらっしゃる方です。これまでに全国30校以上の中高一貫校や大学で、入試問題にも採用されました。

タイトルや出典部分からは、AIについて論じた本を想像して手に取ったのですが、読み進めてみると、むしろ良質な「文章術」の本としても、ぜひ子どもたちに読んでほしい一冊だと感じました。

AI時代にも必要な「文章の技術」

そもそも私たちは、学校で作文を書くことはあっても、「文章をどう組み立てるのか」「読み手に伝わる文章とは何か」を、体系立てて学ぶ機会は意外と少なかったのではないでしょうか。

本書では、「文」と「文章」、「文章」と「文書」の違いから始まり、主語と述語の関係、接続詞、段落の組み立て、具体と抽象の行き来など、文章を書くための技術が丁寧に解説されています

AIが自然な文章をあっという間に書いてくれる時代だからこそ、人が文章を書くときに何を考え、どのように言葉を組み立てているのかを知ることには、大きな意味があるように思います。

文章には「自分という存在」がにじむ

しかし、著者が伝えようとしているのは、上手に書くためのテクニックだけではありません。

印象に残ったのが、「文章には自分という存在がにじむ」という言葉です。

人は何かに引っかかり、悩み、答えを求めて考えます。本書では、答えを求めて考え続けることこそが教養であり、その思考の軌跡である文章には、その人自身がにじみ出ると語られます。

書きたいと思うこと。誰かに伝えたいと思うこと。自分はなぜそう感じたのかと立ち止まり、自分なりの答えを探すこと。

ノートに鉛筆で書き直しながら、自分の言葉を探す手元の水彩調のイラスト
自分の考えを、自分の言葉にする(生成AIによるイメージ)

そうしたものがあって初めて、「自分の文章」になるのです。

AIが文章を書く時代に、自分の言葉を持つということ

『AIに書けない文章を書く』が刊行された2025年3月からも、すでに一年半が経ちました。

AIの進歩を考えれば、近い将来、前田さんのいう意味での「文章」に限りなく近いものまで、AIが書くようになるかもしれません。

それでも、人が文章を書く意味までなくなるとは思えません。

AIが上手な文章を書いてくれる時代だからこそ、「うまく書けること」以上に、自分は何を感じ、何を疑問に思い、何を考え、何を誰かに伝えたいのかが大切になるのではないでしょうか。

本を読んで、これからの世界を考える

AIを取り上げた本は、技術の進歩が速いぶん、紹介されているサービスや「できること」が驚くほど早く古くなっていきます。

けれど、これらの本が投げかけた問いまで古くなったわけではありません。

むしろAIにできることが急速に増えた今のほうが、「では、人はAIとどう付き合っていけばよいのか」という問いは、より切実になっているようにも感じます。

一冊の本を読むことで、AIについて知る。その本から「人間に必要な力とは何だろう」と考える。さらに別の一冊を開き、「自分の言葉で書くとはどういうことだろう」と問いが広がっていく。

読書のおもしろさは、こうして一冊の本から、次の世界へとつながっていくところにもあります。

これからの未来をAIとともに生きていく子どもたちにこそ、手渡したい3冊です。
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