【中学受験2026】国語で注目『星の教室』|学ぶ意味を考える

高田郁『星の教室』

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角川春樹事務所

春特有のそわそわとした空気が少しずつ落ち着いてくるこの時期。日々当たり前にある「学び」について考えるきっかけとしておすすめしたい本を紹介します。
今回は、「夜間中学」をテーマに取り上げた物語、高田郁さんの『星の教室』です。

日々を懸命に生きる人々の姿を、あたたかく誠実に描き出す作風に定評

高田さんの作品は個人的にもたくさん読んできましたが、『みをつくし料理帖』『あきない世傳 金と銀』など、日々を懸命に生きる人々の姿を、あたたかく誠実に描き出す作風に定評があります。エピソードひとつひとつが、丁寧に取材を重ねたうえで紡がれているという安心感があり信頼を寄せています。本作もまた、その期待を裏切らない一冊です。

「夜間中学」という教室

中学生の頃に不登校となった主人公

物語の主人公である潤間さやかは、中学生の頃に不登校となり、そのことをきっかけに家族との関係にも距離を抱えたまま大人になります。本来であれば当たり前に通過していくはずだった「学びの時間」を持たないまま社会に出た彼女は、どこか息苦しさや居場所のなさを感じながら日々を過ごしていました。

夜間中学での出会い

そんな彼女が出会うのが、「夜間中学」という学びの場です。

夜間中学:戦争や貧困、家庭の事情など、さまざまな理由で義務教育を受けられなかった人たちが、年齢に関係なく机に向かえる場所

1枚のチラシから夜間中学の存在を知った20歳の春、さやかはその扉を開き、そこで自分よりもはるかに年上だったり、異なる背景を持ったりという様々な仲間たちに出会います。

※生成AIによるイメージです。

社会の中にリアルに存在する現実

小説ではありますが、本作で描かれているのは、確かにこの社会の中に存在している現実です。高田さんの執筆の背景にも、実際の識字教育の現場への取材があったそうです。

学ぶことの尊さと、その喜びを、あらためて教えてくれる物語です。

七夕の短冊に書く願い事

青山学院中等部・実践女子学園・獨協など多くの私立中学でも出題

2025年2月の発刊からこれまでの間に、いくつもの模試、そして青山学院中等部、実践女子学園や獨協など、中学受験国語の文章題でも取り上げられています

その中でも印象的なのが七夕の短冊に願いごとを書く場面です。満州からの引き揚げなどの影響で、日本語を十分に学ぶ機会を持てなかった生徒たちが、ひらがな一文字ずつを確かめるように書いていく。そのたどたどしさの奥に、「書きたい」という強い思いがにじんでいます。

止まっていた時間が動き出す

文字を書くことそのものに喜びを見出す姿。ようやく自分の思いを、文字を通して言葉にできるという、その小さな一歩の重み。主人公のさやかは、この光景に触れたことで自分の過去と向き合い直し、少しずつ前へ進みはじめることができます。彼女自身の中で止まっていた時間が動き出す場面です。

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同世代の目線から 山本悦子『夜間中学へようこそ』

こうした「学び直し」の夜間中学を舞台に、もう少し身近な視点から描いた作品として、山本悦子さんの『夜間中学へようこそ』をあわせて紹介させていただきます。

76歳の祖母が宣言「夜間中学に通う」

物語は、中学一年生の優菜の視点で進みます。ある日、76歳の祖母が突然「夜間中学に通う」と宣言したことをきっかけに、優菜は思いがけずその世界に足を踏み入れることになります。祖母が足を怪我したこともあり、学校帰りに付き添う形で教室に通う日々が始まるのです。

※生成AIによるイメージです。

そこに集うのは、年齢も背景もさまざまな人たち。優菜は戸惑いながらも、彼らと関わる中で、「学びの場」は子どもだけのものではないという事実に気づいていきます。そして、そこにいる誰もが、自らの意志で「学びたい」と願い、その場に立っているということにも。

『星の教室』との大きな違い

『星の教室』との大きな違いは、主人公がまだ学生であり、中学受験を目指す子どもたちと同年代であることです。『星の教室』が、大人の視点から「学ぶこと」の意味を静かに掘り下げていく物語だとすれば、『夜間中学へようこそ』は、いままさに学びの中にいる子どもたちに気づきをくれる物語です。

同世代だからこそ感じる驚きや戸惑い、そして少しずつ変わっていく心の動きが自然と重なっていきます。これまで知らなかった世界に触れることで日常の見え方が変わっていく、その過程をぜひたどってほしいと思います。

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当たり前にある「学び」に気づく

どちらの物語にも共通しているのは「学びたい」と願う気持ちの尊さです。それは、年齢や立場に関係なく、その思いを受け止める場所があるということの意味を、私たちにあらためて教えてくれます。

中学受験の世界に身を置いていると、学びはどうしても「成果」や「結果」と結びつけて語られがちです。子どもたちを見ていても、当たり前に与えられている学びの環境をありがたいと感じている子は少なく、本来の学び、そして豊かな学びとはと考えさせられます。

夜間中学の存在自体を、この本で初めて知った方もいたかもしれません。まずは本を通して、世界を広げて見てみること。本を読む前と後では、色々なものの見え方がほんの少し違って見えてくるはずです。

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