【読書で世界を広げよう】ゲームやSNSは子どもの世界をどう広げる? 親子で読みたいオンラインの友情

齊藤美琴先生が、子どもたちの世界を広げてくれる本を紹介する連載「読書で世界を広げよう」。今回は、ゲームやSNSで生まれる友情を描いた物語を取り上げます。

子どもたちはオンラインの世界で、何を楽しみ、誰と出会っているのでしょう。『王様のキャリー』と『オンライン・フレンズ』2冊を手がかりに、親子でその世界を覗いてみましょう。

「ぷよぷよ」で小学生がアジア王者に

2026年9月、愛知・名古屋アジア競技大会のeスポーツ「ぷよぷよ」で、小学5年生、11歳の栗原悠輝選手が金メダルを獲得しました。日本選手団最年少、そしてアジア大会史上最年少のメダリストという快挙です。

栗原選手は中学受験を控え、塾にも通っているそうです。インタビューによると、ゲームの練習は平日1時間ほどだといいます。

学習ノートと本を置いた机で、コントローラーを操作する子どもの手元を描いた水彩画
子どもたちのゲームと学びの世界(生成AIによるイメージ)

ゲームのすごさを、大人はどう受け止める?

「小学5年生がぷよぷよでアジア大会の金メダル」と聞けば、ものすごいことだというのはわかります。でも、ゲームにそれほど馴染みのない大人にとって、それがどれほどの技術を必要とし、どんな能力を競っているのかとなると、なかなか解像度が上がらないのも正直なところではないでしょうか。

「ゲームか勉強か」では見えないもの

ゲームに時間を費やす我が子を見て、「ゲームなんて」と感じたり、「ゲームか勉強か」という二択で考えてしまったりすることもあります。しかし、勉強をしながら競技としてゲームに向き合い、国を代表して世界と戦う小学生が現れ、子どもたちを取り巻く世界は、私たち大人が子どもだった頃とはずいぶん変わっています。

新しい技術や文化を、まずは知ってみる

前回のコラムでは、AIをテーマにした本を取り上げました。AIもまた、わずかな期間で子どもたちにとって身近な存在になったものの一つです。新しい技術や文化が次々と登場するなか、大人の側も「よくわからないから遠ざける」のではなく、まずはその世界を知ってみることが必要なのかもしれません。

eスポーツを知る入口になる一冊

そんなことを考えながら、今回手に取ったのが、eスポーツを題材にした児童文学作家・まひるさんの『王様のキャリー』です。オンラインのゲームを通して育まれる少年たちの友情の物語で、本作は講談社児童文学新人賞と小学館児童出版文化賞の二つの賞を受賞しています。

『王様のキャリー』の表紙
『王様のキャリー』まひる 著/講談社

ゲームの中では、誰もが同じフィールドに立てる

主人公は、中学2年生の勝生。オンラインゲームに夢中で、圧倒的な強さを誇る憧れのストリーマー「lion」の配信を楽しみにしています。ある日、病院で偶然出会った同い年の少年・リオが、そのlion本人だと知ることから物語が動き始めます。

リオは車いすユーザーです。現実の世界では移動をはじめさまざまな制約がありますが、ゲームの世界では誰よりも強い「王様」です。

車いすを使う子どもと隣に座る子どもが、同じ画面で協力してゲームに取り組む後ろ姿の水彩画
ゲームを通してつながる友情(生成AIによるイメージ)

「キャリー」の意味から見えるeスポーツ

ゲームに馴染みがないと、「キャリー」というタイトルからしてよくわからないかもしれません。キャリーとは、圧倒的な実力でチームを勝利に導くことです。作品を読み進めるうちに、プレイヤー同士がどのように協力するのか、eスポーツの世界で何が競われているのかが、物語を通して少しずつ見えてきます。

姿や条件を越えて、プレイヤーとして出会う

同時に描かれるのは、現実とオンラインでの人との関わり方です。年齢や外見、身体的な条件など、現実の世界では否応なく意識されるものから離れ、ゲームの中では一人のプレイヤーとして同じフィールドに立つことができます。

『王様のキャリー』はeスポーツを知る入口であると同時に、オンラインだからこそ生まれる人と人とのつながりについて考えさせてくれる物語でもあります。

「ネットで知り合った友だち」は友だち?

オンラインで生まれる人間関係は、ゲーム以上に大人には見えにくいものかもしれません。

神戸遥真さんの『オンライン・フレンズ』は、中学1年生のさくらと中学2年生のユナが、SNSで同じ漫画が好きなことをきっかけに知り合い、交流を深めていく物語です。

『オンライン・フレンズ@さくら』の表紙
『オンライン・フレンズ@さくら』神戸遥真 著・カシワイ 絵/講談社
『オンライン・フレンズ@ユナ』の表紙
『オンライン・フレンズ@ユナ』神戸遥真 著・カシワイ 絵/講談社

二つの視点で読むSNSの世界

特徴的なのは、「@さくら」と「@ユナ」の2冊が対になっていて、同じ出来事をそれぞれの側から描いていること。どちらから先に読んでも楽しめますが、もう1冊を開くと、それまで見ていた景色が少し違って見えてきます。この感覚は、ぜひ予備知識なしで味わってほしいところです。

別々の机で本を開き、スマートフォンで言葉を交わす二人の手元を描いた水彩画
二つの視点から広がるオンラインの友情(生成AIによるイメージ)

「自分だったら」を考えるネットリテラシー

この作品ならではの魅力は、物語を楽しみながら、ネットとの付き合い方について自然に考えられることです。SNSに写真や個人情報を載せる際の注意点や、著作権にまつわる問題も、登場人物たちの日常の中に登場します。「これは危険」と教えられるのではなく、「自分だったらどうするだろう」と考えられる。これからSNSを使い始める子どもにとって、ネットリテラシーについて考えるよい機会にもなりそうです。

広がる世界と、偏りやすい情報

そして、もう一つ考えさせられたのが、インターネットは世界をどこまでも広げてくれるようでいて、実は接する情報の幅は思うほど広くないということ。自分が好きなものや似た考えが次々と目の前に現れ、知らず知らずのうちに見える世界が偏り、狭くなっていることもあります。

同じ出来事でも、さくらから見た世界とユナから見た世界は同じではありません。自分が見えているものだけがすべてではない。そのことを2冊組という仕掛けそのものから体験できるのも、この作品の面白さです。

心配だけで終わらせない、親子の対話

親の立場からすれば、子どもがSNSで見知らぬ誰かとつながることには、心配が先に立つでしょう。もちろん危険性を伝えることは必要ですが、危険だから遠ざけるだけでも、便利だから使えばいいと考えるだけでもない。そんなインターネットやSNSとの付き合い方を、二人の物語を通して考えられる作品です。

知らない世界だからこそ、本で覗いてみる

eスポーツも、オンラインでの人間関係も、親世代にとってはまだ馴染みの薄い世界かもしれません。しかし、子どもたちはそこで何を楽しみ、何を競い、誰と出会っているのか。二つの物語を読むことで、その世界の解像度が少し上がったように感じます。

自分が経験したことのない世界を、誰かの視点から覗いてみる。本には、子どもだけでなく大人の世界も広げてくれる力があるのだと思います。読書の秋、ぜひお子さんと一緒に手に取ってみてください。

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