
2026年度入試を終えて
2026年度の入試が一段落し、塾では新しい学年の授業が始まりました。この時期、毎年楽しみにしているのが、各校でどのような文章が出題されたのかをたどる時間です。
国語の文章問題には、学校が大切にしている視点が浮かび上がりやすいように思います。
どんなテーマを選び、どの場面を切り取り、どのような問いを立てるのか。
そこには、子どもたちに何を考えてほしいのかというメッセージが込められています。
出典の選び方には先生方の思いがあり、設問の一つひとつには受験生への心配りがある
先日、私立中学校で実際に作問を担当されている先生のお話を伺う機会がありました。
▼スタジオキャンパスの矢野先生が主宰する「中学受験研究会」に参加させていただきました!
私立中学校の先生方から、出典の本を探す際のエピソード、問題の難易度について苦心されていることなどを拝聴し、出典の選び方には先生方の思いがあり、設問の一つひとつには受験生への心配りがあることを再確認できました。
限られた時間の中で、読む力、表現する力を試す入学試験ですが、入試問題は「最初の国語の授業」といわれることがあるように、試験をきっかけに良い本に出会ってほしいという学校の思いを感じます。
入試問題は、学校からのメッセージ
中学受験の国語で扱われるテーマは幅広く、説明的文章ではコミュニケーション、言葉のはたらき、環境、科学、AI、哲学まで多岐にわたります。
物語文においては、前年に刊行された世相を反映したようなテーマ(多様性、異文化理解等)もあれば、古典といわれるような少し馴染みにくい文章もあります。
そして分量は4000字前後と決して軽くはなく、多い学校では10000字近いボリュームの文章が出題されることもあります。中学入試本番では、初めての文章に向き合う集中力、そして粘り強さが求められます。
だからこそ、「入試に出そうな本を読ませておけば安心」という単純な話ではありません。とりわけ説明的文章は、大人の伴走があってこそ深く味わえるものも多いのです。傍にいる大人が共に読み、その面白さや奥行きを補完して伝えることができればと思います。
今回は、2026年度入試で取り上げられた作品の中から、ぜひ親子で手に取ってみてほしい本を2冊ご紹介します。
木村綾子『本が繋ぐ』 桜蔭中にて出題
今年はエッセイ・随筆から印象的な出題が多く見られましたが、その中でも心に残った一冊です。随筆文を読むことは書き手の人生を辿ることのように思います。
桜蔭中の入試問題で扱われたのは、筆者が小学校5年生の時の記憶を辿った「月の子」という1編。
そのエピソードの中で筆者が思い出す本として、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』が登場します。
全28編からなる本書は、それぞれのエピソードにまつわる本が1冊ずつ紹介されています。大人の視点から語られるものも多いので、小学生にとっては少し背伸びをする読書になるかもしれません。しかし、その「ちょっとまだ難しいな」という感覚こそが、心を一段引き上げてくれるのではないでしょうか。
人気絵本作家・酒井駒子さんの描き下ろし装画も大きな魅力です。表紙の少女の繊細なタッチは、木村さんの細やかな筆致と重なります。
入試問題を通してこの文章に出会った受験生たちは幸せ
私個人も、自分にとって大切な本との出会いを思い出す1冊となりました。もし、まだそんな一冊に出会っていないならば、これからの本との出会いが楽しみになるに違いありません。入試問題を通してこの文章に出会った受験生たちは幸せです。ぜひ、多くの方に手に取っていただきたい一冊です。
いとうみく「親友のカレ」 『TRUE Colors 境界線の上で』所収 海城中にて出題
次は、海城中の入試(第二回)で出題された物語を紹介します。『YA!ジェンダーフリーアンソロジー TRUE Colors』第2弾として刊行された本書は、五人の児童文学作家がそれぞれの視点で中学生が主人公の物語を紡いでいます。
思春期の心の機微を描く物語
取り上げられたのはいとうみくさんの「親友のカレ」。恋人だった2人が「親友」という関係に戻ったところから始まります。元彼に「好きな人ができた」と告げられ、主人公の心は思いがけず揺れます。しかも、その相手は「彼女」ではなく「彼氏」。自分はジェンダーに理解があるはずと思っていたのに、思わぬ戸惑いと混乱の中で、自分の感情と向き合う姿が丁寧に描かれています。
ジェンダーや多様性という「今どき」のテーマが先行し、ストーリーが置き去りになってしまった物語も多くなってきたように思っていたのですが、本作はあくまでも思春期の心の機微を描く物語です。嫉妬や寂しさ、理解したいという思いが交錯する、その揺れのリアルさが物語を読む楽しさへとつながります。
登場人物の心の動きをどう受け止めるか
男子校である海城中が、この文章を受験生に読ませたことにも意味を感じます。こうあるべき、という価値観の押しつけではなく「登場人物の心の動きをどう受け止めるか」を見たかったのではと思います。社会的なテーマを含みながらも、まずは展開が気になってしまうような、物語としての面白さがあることが、この作品の一番の魅力と感じました。
最後に
今月は随筆文と物語文から1冊ずつ紹介させていただきました。本を手に取って、興味を持たれた方はぜひ入試問題にも目を通して、受験生の目線や学校の先生方の目線で出会い直してみてください。
来月は説明的文章の注目作品を取り上げたいと思います。今回紹介した2冊もそうですが、近年は前年度刊行の新刊からの出題が目立ち、先生方が新しい作品に目を向けながら選書されている様子がうかがえます。どうぞお楽しみに。







