バーチャルとリアルの話(後編)【四方山理科話(よもりか)②】

前編では、私が私立中高で教員をしているときに聞いた「最近の生徒たちはバーチャルに強いがリアルに弱い」というベテラン教員の発言について考えてみました。

後編となる今回は、どのように日常生活の中で実体験を積んでいけるかを考察したいと思います。

低学年(幼少期)はお買い物やお手伝いが効果的

塾に通う前であれば日常生活の中でより多くの実体験を積むことが大切です。

低学年(幼少期)の子どもたちは身の回りの事物や現象に対する興味・関心が高い時期ですので、できるだけ大人が種まきをしてあげる必要があります。その種まきとしてオススメしていることを2つ紹介します。

子どもをお買い物に連れていく

1つ目に「子どもをお買い物に連れていくこと」です。

特にスーパーなどの青果や鮮魚売り場は教材の宝庫。季節によって目にする野菜・果物・魚が入れ変わりますし、1年を通じて陳列されているものでも値段や産地が変化していることから、食材には旬があることを学べます。

また調理前の食材を見れば、この野菜はどの部分を食べているのか?魚の切り身や開きはどのようにして処理されているのかをイメージしやすくなるでしょう。

過去の中学入試出題例

果物の旬について,野菜の可食部について,サケの切り身について,アジの三枚おろしについて

子どもにお手伝いをさせる

2つ目に「子どもにお手伝いをさせること」です。

ご家庭の台所は理科室に、料理は科学に通ずるところがあります。ガスコンロの炎の色(前編参照)やお湯が沸騰するまでのようすを観察するだけでも学びがあるはずです。

簡単な調理であれば任せてみるのも良いでしょう。卵をゆでるときに適度にかき混ぜると黄身が偏らないことや、ジャガイモのくぼみから出る芽をくりぬくことなど、保護者の方が知っている豆知識をぜひ伝えてあげてください。

過去の中学入試出題例

ゆで卵や温泉卵のつくり方,魚の化粧塩(飾り塩)について,紙鍋について,カレーのつくり方

高学年は小学校の理科の授業を大切に

塾通いが始まると忙しくなり、お買い物やお手伝いといった実体験をご家庭で積む時間が限られてくると思います。だからこそ、子どもたち自身に大切にしてもらいたいものが1つあります。

それは「小学校での理科の授業(観察や実験)」です。


塾の授業では、現象を実際に目で見たり、実物に触れて確かめたりすることに限界があります。しかし、小学校の理科の授業では観察や実験が重視されており、バーチャル(=教科書で学んだ知識)とリアル(=実体験)が無理なく接続されるように考えられているのです。これは文部科学省の学習指導要領にも定められています。

動植物の観察は特徴や変化を捉える力を育む

観察は植物や動物の構造的特徴や時間経過に伴う変化を捉える力を育みます。

植物を例にすると、3年生でホウセンカやヒマワリ、4年生でウリ科の植物(ヘチマ・ヒョウタン・ツルレイシ)、5~6年生でアブラナ・アサガオ・インゲンマメ・ジャガイモなどを栽培します。これらは中学入試でも出題頻度の非常に高い植物ですし、「どこに注目するのか」などの目的を持って観察することで自然に対する興味や関心も増すはずです。
※採択される教科書会社や自治体および学校によって栽培する植物は異なります。

実験では五感をフルに活用して知識を習得・確認できる

実験では五感をフルに活用して知識を習得(または既知の知識を確認)することができます。

「光学顕微鏡では高倍率ほどピント合わせに苦労する(最初は低倍率からピントを合わせる)」とか、「酸素の気体検知管は発熱するから注意が必要」などは、実際に経験した生徒ほどしっかりと覚えているものです。科学的な見方や考え方も身につくでしょう。

中学受験生の皆さんには塾の授業だけでなく、小学校の授業(特に実験や観察および実習など)も積極的に参加をして、数多くの実体験を積んでほしいと思います。

学校教科書をしっかり読もう

余談ですが、小学校の教科書はその科目の専門家が執筆していますから、皆さんが塾で習っていないような豆知識が書かれているかもしれません。実は入試問題を作っている私立中学の先生方も「小学校の教科書を参考にしている」とおっしゃっていましたので、しっかり読むことをオススメします。

大人とのコミュニケーションが興味や関心を育てる

理科に対する興味や関心は、バーチャルとリアルの接続に欠かせないものとなります。

しかし、最近授業をしていて気になるのは「身の回りの物事や現象に対する注意力や関心が希薄な子どもが増えたかな?」ということです。これについては子ども自身だけではなく、大人にも原因があるように感じています。ここではスマホ(スマートフォン)を例に考えましょう。

スマホの普及で親子のコミュニケーションが減る?

電車の中でも街を歩いていても、多くの大人たちがスマホばかりを眺めている姿を目にします。

画面を注視するあまり、外界からの刺激を受容できないこともあるはずです。これは身の回りのちょっとした変化や疑問を察知する機会の減少(ひいては観察力の低下)を意味しているのではないでしょうか。

少し大袈裟かもしれませんが、便利であるスマホの普及によって、大人側から子どもに対してちょっとした疑問を投げかけ、一緒に考えてあげるようなコミュニケーションが減っているのかもしれません。

身の回りの「なぜ?」「どうして?」を大切にする

本来、子どもたちは身の回りの「なぜ?」「どうして?」を知りたがるものです。特に低学年のうちは観察力・好奇心を失くさないためにも、その疑問にぜひ付き合ってあげてください。即答できなければ一緒に考えてあげたり、調べ方を教えてあげたりすることも大切です。

そして、子どもに負けないくらい「なぜ?」と問いかけてあげましょう。子どもが自分から図鑑などで調べたり考えたりしてくれるようになったらもう大丈夫でしょう。わたしたち大人も、スマホの画面ではなく、たまには目線を上げて周囲を見渡してみると、新たな発見があるかもしれません。

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